「マイクログリッド」という言葉を耳にするけれど、具体的にどのようなものかご存知ですか?災害時の停電対策や脱炭素社会の実現に向け、経済産業省も補助金制度を設けて推進する次世代の電力網、それがマイクログリッドです。

この記事では、マイクログリッドとは何か、従来の電力網との違いといった基礎知識から、太陽光発電などの分散型電源や蓄電池で構成される仕組み、導入のメリット・デメリット、国内外の最新事例までを網羅的に解説します。なぜ今、マイクログリッドが重要視されるのか?その理由は、第一に「災害に強いエネルギーインフラ(レジリエンス)の強化」、第二に「再生可能エネルギーの導入拡大」、そして第三に「エネルギーの地産地消による地域経済の活性化」にあります。

本記事を最後まで読めば、未来のエネルギー供給網の鍵となるマイクログリッドが理解できます。

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目次
  1. マイクログリッドとは わかりやすく解説
    1. 1.1 地域のエネルギーを自給する小さな電力網
    2. 1.2 従来の電力網(系統電力)との決定的な違い
  2. なぜマイクログリッドが今注目されるのか 3つの理由
    1. 2.1 理由1 災害に強いエネルギーインフラ(レジリエンス)の強化
    2. 2.2 理由2 再生可能エネルギーの導入拡大と脱炭素社会への貢献
    3. 2.3 理由3 エネルギーの地産地消による地域経済の活性化
  3. 経済産業省も推進するマイクログリッド構築事業
    1. 3.1 国の補助金制度と支援の全体像
    2. 3.2 GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた役割
  4. マイクログリッドの仕組みと主要な構成要素
    1. 4.1 分散型電源 太陽光発電や風力発電など
    2. 4.2 蓄電池 電力を貯めて安定供給を支える
    3. 4.3 CEMS 地域全体のエネルギーを最適に管理する頭脳
  5. マイクログリッドのメリットとデメリット
    1. 5.1 導入によって得られる4つの大きなメリット
    2. 5.2 導入前に知っておくべき3つのデメリットと課題
  6. 国内外のマイクログリッド導入事例
    1. 6.1 国内の先進事例 沖縄電力や東松島市の取り組み
      1. 6.1.1 沖縄電力の離島マイクログリッド:再生可能エネルギーの安定供給を目指す
      2. 6.1.2 東松島市の防災マイクログリッド:震災の教訓を活かした「自立・分散型エネルギーシステム」
    2. 6.2 海外のスマートシティにおける活用事例
  7. まとめ

マイクログリッドとは わかりやすく解説

マイクログリッドとは、太陽光発電や蓄電池といった「分散型電源」を活用し、特定の地域内で電力の生産から消費までを行う、比較的小さなエネルギー供給網(電力網)のことです。普段は既存の大きな電力網(系統電力)と接続して連携しつつも、災害による停電など非常時には独立して、地域内の重要施設などに電力を供給し続けることができます。まさに、エネルギーの「地産地消」を実現する次世代の仕組みとして、私たちの暮らしや社会のあり方を変える可能性を秘めています。

1.1 地域のエネルギーを自給する小さな電力網

マイクログリッドの最も大きな特徴は、地域レベルでの「エネルギー自給」にあります。従来の電力システムが、遠く離れた大規模な発電所から一方的に電力を受け取る仕組みだったのに対し、マイクログリッドは地域内に設置された太陽光パネル、風力発電機、バイオマス発電といった再生可能エネルギー源を主体とします。

そして、発電した電力を地域内の家庭、オフィス、工場、病院などで消費します。天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーを安定して使うために、発電した電気を貯めておく「蓄電池」と、地域全体の電力需給を賢くコントロールする「CEMS(セムス:Community Energy Management System)」が重要な役割を果たします。これにより、平常時にはエネルギーコストの削減や環境負荷の低減に貢献し、非常時には独立した電力源として機能することで、防災拠点や避難所などの機能を維持することができるのです。

1.2 従来の電力網(系統電力)との決定的な違い

マイクログリッドは、私たちが普段何気なく利用している「系統電力」とは、その仕組みや考え方が大きく異なります。系統電力とは、大規模な火力発電所や水力発電所などで作られた電気を、送電網を通じて全国規模で供給する従来の電力網のことです。両者の違いを理解することで、マイクログリッドの持つ価値がより明確になります。

主な違いを以下の表にまとめました。

比較項目マイクログリッド従来の電力網(系統電力)
構造分散型(地域内に電源が点在)集中型(大規模発電所に依存)
電源の主体太陽光・風力などの再生可能エネルギー、蓄電池など火力・水力・原子力などの大規模発電所
電力の流れ双方向(電力の売買や融通が可能)一方向(発電所から消費者へ)
災害時の強さ系統から独立(自立運転)でき、停電時も電力供給を継続可能発電所や送電網の損傷で広域・長期の停電リスクがある
エネルギー効率消費地の近くで発電するため送電ロスが少ない長距離送電のため送電ロスが発生しやすい

このように、マイクログリッドの最大の強みは、災害時でも独立して電力を供給し続けられるレジリエンス(強靭性)の高さにあります。大規模な自然災害が頻発する日本において、この特徴は社会インフラを維持する上で非常に重要です。また、再生可能エネルギーを最大限に活用する仕組みは、脱炭素社会の実現に向けた切り札としても期待されています。こうした背景については、経済産業省 資源エネルギー庁の解説でも詳しく述べられています。

なぜマイクログリッドが今注目されるのか 3つの理由

従来の電力網が抱える課題を解決し、次世代のエネルギー供給の形として期待されるマイクログリッド。なぜ今、これほどまでに国や自治体、企業から熱い視線が注がれているのでしょうか。その背景には、防災、環境、経済という3つの大きな社会的要請があります。ここでは、マイクログリッドが注目される核心的な理由を詳しく解説します。

2.1 理由1 災害に強いエネルギーインフラ(レジリエンス)の強化

日本は、地震、台風、豪雨といった自然災害が頻発する国です。大規模災害が発生すると、広範囲にわたる停電、いわゆる「ブラックアウト」が起こり、社会機能が麻痺するリスクを常に抱えています。実際に、2018年の北海道胆振東部地震や2019年の令和元年房総半島台風では、大規模停電により多くの人々が長期間にわたり不便な生活を強いられました。

従来の電力システムは、大規模な発電所から広域の送電網を通じて電力を供給する「集中型」が主流です。この方式は効率的である一方、発電所や送電網の一部が被災すると、その影響が広範囲に及ぶという脆弱性を抱えています。

これに対し、マイクログリッドは地域内でエネルギーを自給自足できる「分散型」の電力網です。万が一、大規模な災害で外部の系統電力が停止しても、マイクログリッドは独立して自立運転を行い、地域内の重要施設へ電力を供給し続けることができます。これにより、避難所となる公民館や学校、医療を担う病院、通信を維持する基地局などの機能を維持し、住民の命と安全を守ることが可能になります。この災害への強靭さ、すなわち「レジリエンス」の向上が、マイクログリッドが注目される最大の理由の一つであり、企業のBCP(事業継続計画)対策としても極めて重要視されています。

項目従来の電力網(集中型)マイクログリッド(分散型)
電力源大規模発電所(火力・原子力など)地域の再生可能エネルギー、コージェネレーションなど
災害時の影響発電所や送電網の被災で広範囲が停電するリスク系統電力が停止しても、独立して域内への電力供給が可能
復旧広域にわたるため、復旧に時間がかかる場合がある限定されたエリアのため、迅速な状況把握と復旧が期待できる
キーワード大規模・集中・効率性小規模・分散・レジリエンス(強靭性)

2.2 理由2 再生可能エネルギーの導入拡大と脱炭素社会への貢献

世界的な課題である気候変動対策として、日本も「2050年カーボンニュートラル」の実現を宣言し、脱炭素社会への移行を急いでいます。その切り札となるのが、太陽光や風力といった再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大です。

しかし、再エネには天候によって発電量が大きく変動するという課題があります。電力は常に需要と供給を一致させる必要があり、出力が不安定な再エネが大量に電力網に接続されると、電力の品質や安定供給に影響を及ぼす可能性があります。そのため、従来の電力網では再エネの受け入れに限界がありました。

マイクログリッドは、この課題を解決する有効な手段です。地域内に設置された蓄電池や、エネルギー需要を最適に管理するCEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)と連携することで、再エネの出力変動を吸収し、需給バランスを巧みに調整します。例えば、晴天で太陽光発電の電力が余った場合は蓄電池に充電し、曇天や夜間にその電力を利用するといった柔軟な運用が可能です。これにより、大規模な系統電力に頼ることなく、地域レベルで再エネの導入率を最大限に高めることができます。化石燃料への依存度を下げ、CO2排出量を削減することに直結するため、マイクログリッドは脱炭素社会を実現するための重要なピースとして期待されています。

2.3 理由3 エネルギーの地産地消による地域経済の活性化

これまでの日本の電力システムでは、地方の大規模発電所でつくられた電気が、都市部の消費地へ送られるのが一般的でした。これは、電気料金という形で地域から都市部や大手電力会社へ資金が流出する構造を意味します。

マイクログリッドは、このお金の流れを大きく変える可能性を秘めています。地域内の太陽光パネルや小規模なバイオマス発電所など、その土地にある資源を使ってエネルギーを生み出し、地域内で消費する「エネルギーの地産地消」を実現します。これまで地域外へ流出していたエネルギーコストが地域内で循環し、新たな経済的価値を生み出すのです。

具体的には、以下のような効果が期待できます。

  • 新規雇用の創出: 再エネ設備の設置や保守・管理といった新たなビジネスが生まれ、地域に雇用が生まれます。
  • 地域企業の競争力強化: エネルギーコストの削減や安定化は、地域の中小企業の経営基盤を強化します。また、災害時にも事業を継続できるレジリエンスの高さは、企業の立地選定において大きな魅力となります。
  • 地域ブランドの向上: 環境に配慮した先進的な地域として、観光や移住促進の面でイメージアップにつながります。

このように、マイクログリッドは単なるエネルギーインフラにとどまらず、エネルギーを軸とした持続可能な地域づくりと経済活性化を促進する起爆剤として、大きな注目を集めているのです。

経済産業省も推進するマイクログリッド構築事業

近年、マイクログリッドは単なる一企業の取り組みに留まらず、国策としてその重要性が認識されています。特に経済産業省は、エネルギーの安定供給と脱炭素社会の実現という2つの大きな目標を達成するための鍵として、マイクログリッドの構築を強力に推進しています。災害時のエネルギー確保(レジリエンス強化)はもちろん、再生可能エネルギーの導入拡大を支える次世代の電力インフラとして、様々な支援策が講じられています。

3.1 国の補助金制度と支援の全体像

経済産業省、特にその外局である資源エネルギー庁は、マイクログリッドの構築にかかる初期投資の負担を軽減し、導入を促進するために多様な補助金制度を用意しています。これらの制度を活用することで、自治体や民間企業は、再生可能エネルギー設備や蓄電池、エネルギー管理システム(CEMS)などの導入コストを大幅に抑えることが可能になります。

代表的な補助金事業には以下のようなものがあります。ただし、公募期間や内容は年度によって変動するため、最新の情報は各事業の公式サイトで確認することが重要です。

補助金事業の名称(例)主な目的対象となる設備・経費補助率(目安)
分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業災害時にもエネルギー供給が可能なマイクログリッド等の自立・分散型エネルギーシステムの構築を支援する。再生可能エネルギー発電設備、蓄電池、CEMS、自営線などの設計・工事・設備費1/2~2/3以内
再生可能エネルギー導入拡大に向けた分散型エネルギーリソース導入支援事業地域の再エネポテンシャルを最大限活用し、地産地消を促進するモデルの構築を支援する。太陽光発電、小水力発電、バイオマス発電設備、蓄電池、エネルギーマネジメントシステムなど1/3~1/2以内
需要家主導による太陽光発電導入促進補助金需要家(電力の消費者)が主体となり、太陽光発電設備と蓄電池等を組み合わせたエネルギーシステムを構築する取り組みを支援する。太陽光発電設備、蓄電池システム、充放電設備などの設備費・工事費事業内容により変動

これらの支援策は、マイクログリッドが単なる理想論ではなく、実現可能な社会インフラであることを示しています。経済産業省は、これらの実証事業を通じて得られた知見や課題を分析し、今後のさらなる普及に向けた政策立案に活かしています。詳細な公募情報については、経済産業省や関連団体のウェブサイトをご確認ください。(参考:資源エネルギー庁

3.2 GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた役割

経済産業省がマイクログリッドを推進するもう一つの大きな理由は、国が掲げる「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」の実現に不可欠な要素だからです。GXとは、化石燃料中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へと転換させ、環境保護と経済成長を両立させる国家戦略を指します。

この壮大な目標の中で、マイクログリッドは以下のような極めて重要な役割を担います。

  • 再生可能エネルギーの導入を最大化する「受け皿」
    太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候によって発電量が変動するという課題があります。マイクログリッドは、地域内で発電された電力を蓄電池やCEMSを用いて賢く制御することで、この不安定さを吸収します。電力系統全体への負担をかけずに再生可能エネルギーの導入量を増やせるため、GXの根幹を支える技術と言えます。
  • エネルギーシステムの脱炭素化を加速
    地域内でエネルギーを生産し、消費する「地産地消」モデルを確立することで、長距離送電による電力ロスを削減できます。また、化石燃料に頼る大規模発電所への依存度を段階的に引き下げ、地域レベルでのカーボンニュートラル達成に直接的に貢献します。
  • 新たなエネルギー関連産業の創出
    マイクログリッドの構築と運用は、蓄電池、パワーコンディショナ、CEMSといった先端技術や、それらを統合するシステムインテグレーション技術の発展を促します。これにより、新たな産業が生まれ、地域に質の高い雇用を創出するなど、経済的な波及効果も期待されています。

このように、マイクログリッドは災害に強いだけでなく、日本の2050年カーボンニュートラル達成という大きな目標に向けた、具体的かつ効果的なアプローチなのです。経済産業省は、マイクログリッドを次世代のスマートな社会インフラの核と位置づけ、その社会実装を加速させています。(参考:経済産業省 GX実現に向けた取り組み

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マイクログリッドの仕組みと主要な構成要素

マイクログリッドは、単一の技術ではなく、複数の要素が連携して機能するシステムです。その仕組みは、大きく分けて「創る(発電)」「蓄える(蓄電)」「賢く使う(制御)」という3つの機能から成り立っています。ここでは、マイクログリッドを成り立たせるための主要な構成要素を詳しく見ていきましょう。

4.1 分散型電源 太陽光発電や風力発電など

マイクログリッドの心臓部となるのが、地域内に分散して設置される「分散型電源(DER: Distributed Energy Resources)」です。これは、従来の大規模な火力発電所や原子力発電所のように一か所で大量に発電するのではなく、電力の消費地の近くで小規模に発電する設備の総称です。

分散型電源の最大のメリットは、地域の特性やニーズに合わせて最適なエネルギー源を選択できる点にあります。例えば、日照時間が長い地域では太陽光発電、風が強い沿岸部では風力発電が中心となります。これにより、送電ロスを最小限に抑え、エネルギー効率を高めることができます。代表的な分散型電源には以下のようなものがあります。

分散型電源の種類主な特徴マイクログリッドにおける役割
太陽光発電日中の発電が主。設置場所の自由度が高く、住宅の屋根などにも導入可能。地域の主要な再生可能エネルギー源。日中の電力需要を賄う。
風力発電風の力でタービンを回して発電。夜間でも発電が可能。太陽光発電を補完し、24時間体制での電力供給に貢献。
バイオマス発電木質チップや食品廃棄物などの生物資源を燃料とする。天候に左右されず安定した発電が可能。安定したベース電源として、システムの信頼性を高める。
コージェネレーションシステム(CGS)ガスなどを燃料に発電し、その際に発生する排熱を給湯や暖房に利用するシステム。電力と熱を同時に供給する高効率なエネルギー源。特に工場や病院で有効。
燃料電池水素と酸素の化学反応により電気を生成。発電効率が高く、環境負荷が低い。クリーンで安定した電源として、非常時にも活躍。

4.2 蓄電池 電力を貯めて安定供給を支える

太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、天候によって発電量が大きく変動するという弱点があります。この不安定さを解消し、電力の安定供給を実現するために不可欠なのが「蓄電池」です。

蓄電池は、マイクログリッド内で以下のような重要な役割を担います。

  • 電力の需給調整:電力が余っている時間帯(例:晴天の日中)に充電し、電力が不足する時間帯(例:夜間や需要のピーク時)に放電することで、電力の需要と供給のバランスを保ちます。
  • 出力変動の緩和:急な天候の変化で再生可能エネルギーの出力が不安定になった際に、瞬時に充放電を行い、電力の周波数を安定させます。
  • 非常用電源(バックアップ):災害などで大規模な電力網(系統電力)が停止した場合でも、蓄電池に貯めた電力を使うことで、地域内の重要施設などに電力を供給し続けることができます。

まさに、蓄電池は再生可能エネルギーの導入を最大限に活かし、システムの信頼性を高める「調整役」と言えるでしょう。近年では、電気自動車(EV)を「移動する蓄電池」と捉え、駐車中のEVバッテリーをマイクログリッドの調整力として活用するV2G(Vehicle to Grid)という新しい技術も注目されています。

4.3 CEMS 地域全体のエネルギーを最適に管理する頭脳

分散型電源や蓄電池といった個々の機器を連携させ、一つの電力網として効率的に機能させるためには、全体を監視・制御する「司令塔」が必要です。その役割を担うのが「CEMS(セムス:Community Energy Management System)」です。

CEMSは、ICT(情報通信技術)を活用して、地域全体のエネルギーの流れを最適化するマイクログリッドの「頭脳」とも言えるシステムです。具体的には、以下のような機能を持っています。

  1. エネルギーの見える化(監視):地域内の各施設における電力使用量、太陽光発電の発電量、蓄電池の残量といったデータをリアルタイムで収集・監視します。
  2. 需要と供給の予測:過去のデータや天気予報などから、数時間後、数日後の電力需要と再生可能エネルギーによる発電量を予測します。
  3. 最適な運用制御:予測結果に基づき、蓄電池の充放電のタイミングや各電源の出力を自動で制御します。これにより、エネルギーコストの削減とCO2排出量の抑制を両立させる最も効率的な運用を実現します。

CEMSは、ビル単位のエネルギー管理システムであるBEMS(Building EMS)や、家庭単位のHEMS(Home EMS)とも連携することで、よりきめ細やかなエネルギーマネジメントを可能にします。この高度な制御技術こそが、マイクログリッドの安定性と経済性を支える核心部分なのです。CEMSの重要性については、資源エネルギー庁の資料でも解説されています。(参考:資源エネルギー庁「エネルギーマネジメントシステム」

マイクログリッドのメリットとデメリット

マイクログリッドは、未来のエネルギー供給網として大きな期待が寄せられていますが、導入にあたっては光と影の両側面を理解することが不可欠です。ここでは、導入によって得られる具体的なメリットと、事前に乗り越えるべきデメリットや課題を詳しく解説します。

5.1 導入によって得られる4つの大きなメリット

マイクログリッドを構築することで、防災、環境、経済、そして地域社会の活性化という多岐にわたる恩恵が期待できます。それぞれのメリットを具体的に見ていきましょう。

  1. 5.1.1 メリット1:レジリエンス(防災力)の飛躍的な向上 マイクログリッドがもたらす最大のメリットは、災害時におけるエネルギー供給の強靭さ、すなわち「レジリエンス」の向上です。地震や台風などの自然災害によって大規模な電力網(系統電力)が停止する「ブラックアウト」が発生した場合でも、マイクログリッドは系統から切り離され、独立した電力網として自立運転(アイランディング)を開始できます。これにより、地域の避難所、病院、役場といった防災拠点や重要施設への電力供給を維持し、住民の安全確保や迅速な災害対応を可能にします。
  2. 5.1.2 メリット2:再生可能エネルギーの導入を最大化 太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、天候によって出力が変動するという課題を抱えています。マイクログリッドは、地域内に設置された蓄電池やエネルギー管理システム(CEMS)と連携することで、この課題を解決に導きます。電力が余剰な時間帯は蓄電池に貯め、不足する時間帯に放電することで、地域内のエネルギー需給バランスを最適化。これにより、再生可能エネルギーの発電量を無駄にすることなく最大限に活用し、脱炭素社会の実現に大きく貢献します。
  3. 5.1.3 メリット3:エネルギーコストの削減と安定化 エネルギーの地産地消は、経済的なメリットももたらします。地域内で発電した電力を自家消費することで、電力会社から購入する電力量を削減できます。これにより、燃料価格の変動に影響される燃料費調整額や、電気料金に上乗せされる再生可能エネルギー発電促進賦課金などの影響を抑制し、長期的かつ安定的なエネルギーコストの実現が期待できます。また、需要と供給を賢く管理することで、電力需要が集中するピーク時間帯の購入電力を抑え、電気の基本料金を引き下げる効果も見込めます。
  4. 5.1.4 メリット4:エネルギーの地産地消による地域活性化 これまで地域外の電力会社に支払っていた電気料金が、地域内で循環する仕組みが生まれます。マイクログリッドの運営を地域の事業者が担うことで、新たな雇用を創出し、地域経済の活性化につながります。さらに、VPP(バーチャルパワープラント)のように、地域に点在するエネルギーリソースをまとめて電力市場で取引するといった、新たなエネルギー関連ビジネスを創出するプラットフォームとしての可能性も秘めています。

5.2 導入前に知っておくべき3つのデメリットと課題

多くのメリットがある一方で、マイクログリッドの導入と普及にはいくつかの障壁が存在します。コスト、技術、そして制度や合意形成の面から、主要なデメリットと課題を整理します。

  1. 5.2.1 デメリット1:高額な初期投資と運用コスト マイクログリッドの構築には、太陽光発電設備、大型の蓄電池、そして全体を制御するCEMSといった多様な設備が必要です。これらの設備導入にかかる初期投資(イニシャルコスト)は非常に高額になる傾向があります。国や自治体の補助金制度を活用することが前提となりますが、それでも事業者や自治体にとっては大きな財政的負担となります。加えて、導入後も設備の維持管理やシステムのアップデートなど、継続的な運用コスト(ランニングコスト)が発生することも考慮しなければなりません。
  2. 5.2.2 デメリット2:高度な技術とセキュリティ対策の必要性 マイクログリッドは、平時の系統連系と非常時の自立運転を瞬時に切り替えるなど、非常に高度な制御技術を要します。また、天候で変動する再生可能エネルギーの出力を安定させ、地域内の電力品質(周波数や電圧)を常に一定に保つための専門的なノウハウが不可欠です。さらに、ITネットワークで制御されるため、外部からのサイバー攻撃に対する堅牢なセキュリティ対策が極めて重要となり、これを怠ると地域全体の電力供給が停止するリスクもはらんでいます。
  3. 5.2.3 デメリット3:事業モデルの確立と合意形成の難易度 「誰が事業主体となり、どのようにコストを分担し、利益を分配するのか」という事業モデルの確立は、マイクログリッド構築における大きな課題です。自治体、地域の電力会社、民間企業、そして住民など、多くの関係者(ステークホルダー)が存在するため、それぞれの利害を調整し、地域全体での合意を形成するには多大な時間と労力を要します。経済産業省も「マイクログリッド構築支援事業」などで後押ししていますが、持続可能なビジネスとして成立させるための明確な収益モデルを描くことが、普及の鍵を握っています。

国内外のマイクログリッド導入事例

マイクログリッドの概念は、すでに理論の段階を越え、国内外の様々な地域で実用化に向けた実証事業や導入が進められています。ここでは、特に注目すべき国内の先進事例と、スマートシティ構想と連携した海外の活用事例を具体的にご紹介します。これらの事例から、マイクログリッドが私たちの生活や社会にどのような価値をもたらすのか、より深く理解できるでしょう。

6.1 国内の先進事例 沖縄電力や東松島市の取り組み

日本では、地理的条件や過去の災害経験から、特に「離島」と「防災」をテーマにしたマイクログリッドの構築が活発に進められています。ここでは代表的な2つの事例を見ていきましょう。

6.1.1 沖縄電力の離島マイクログリッド:再生可能エネルギーの安定供給を目指す

多くの離島を抱える沖縄県では、従来、電力供給をディーゼル発電に大きく依存していました。しかし、燃料輸送コストの高さや環境負荷、そして台風などの自然災害による電力供給の不安定さが長年の課題でした。そこで沖縄電力は、これらの課題を解決するため、複数の離島でマイクログリッドの実証事業に取り組んでいます。

特に有名なのが宮古島での取り組みです。島内に大規模な太陽光発電所と蓄電池システムを導入し、天候によって出力が変動しやすい再生可能エネルギーを、蓄電池と高度なエネルギー管理システム(CEMS)で制御。電力の需要と供給のバランスを保ちながら、再生可能エネルギーの導入率を最大限に高める挑戦を続けています。この取り組みは、離島におけるエネルギーの自立性を高め、災害に強い電力網を構築するモデルケースとして、全国から注目を集めています。

6.1.2 東松島市の防災マイクログリッド:震災の教訓を活かした「自立・分散型エネルギーシステム」

宮城県東松島市は、東日本大震災で甚大な電力被害を経験した教訓から、国や民間企業と連携し、防災拠点にエネルギーを安定供給するためのマイクログリッドを構築しました。これは「東松島スマート防災エコタウン」事業として知られています。

このシステムの最大の特徴は、災害時に系統電力が停止(ブラックアウト)しても、地域内の重要施設へ電力供給を継続できる点にあります。市が管理する「自営線」によって市役所や病院、小中学校などの避難所が結ばれており、平時は系統電力と連系して太陽光発電の電力を有効活用し、エネルギーコストを削減。そして非常時には系統から完全に切り離され、地域内の太陽光発電と蓄電池だけで最低72時間、電力を自給自足できる設計になっています。この事例は、エネルギーレジリエンスの強化とエネルギーの地産地消を両立させた、次世代のまちづくりの先進モデルと言えるでしょう。この取り組みの詳細は、東松島市の公式ウェブサイトでも紹介されています。

6.2 海外のスマートシティにおける活用事例

海外では、マイクログリッドを単なるエネルギーインフラとしてだけでなく、スマートシティを実現するための重要な要素と位置づけ、より先進的な取り組みが進められています。ここでは、特徴的な2つの事例を表形式で比較しながら解説します。

事例名(国・地域)主な特徴目的・効果
ブルックリン・マイクログリッド(アメリカ・ニューヨーク)ブロックチェーン技術を活用した、住民間でのP2P(ピアツーピア)電力取引プラットフォーム。住民が自宅の太陽光パネルで発電した余剰電力を、電力会社を介さずに近隣住民へ直接販売できる。エネルギーの民主化、地域内での経済循環、コミュニティの活性化に貢献。
ヴォーバン地区(ドイツ・フライブルク)徹底した省エネ住宅(パッシブハウス)と太陽光発電の普及。地域全体でエネルギーを融通し合う「プラスエネルギー地区」を実現。個々の住宅が消費する以上のエネルギーを地域全体で創出し、余剰分は系統へ売電。高いエネルギー自給率と脱炭素社会の実現を市民参加型で進めるモデルとなっている。

ブルックリンの事例は、テクノロジーを活用して新しいエネルギー市場を創出し、消費者が生産者にもなる「プロシューマー」という概念を具現化しています。一方、フライブルクの事例は、都市計画の段階からエネルギー効率を徹底的に追求し、持続可能な社会をハードとソフトの両面から構築している点が特徴です。これらの海外事例は、マイクログリッドが単に電力を供給するだけでなく、新たなビジネスモデルの創出や、市民のライフスタイル変革にも繋がる大きな可能性を秘めていることを示唆しています。

まとめ

本記事では、次世代のエネルギー供給網として注目されるマイクログリッドについて、その仕組みから国内外の事例まで詳しく解説しました。

マイクログリッドとは、太陽光発電のような分散型電源と蓄電池などを組み合わせ、地域内でエネルギーの生産と消費を完結させる小規模な電力ネットワークです。従来の電力網から独立して稼働できるため、災害による大規模停電時にも電力を供給し続けられる高いレジリエンス(強靭性)が最大の特長です。

経済産業省も推進するほど注目されている理由は、主に3つあります。第一に「災害への強さ」、第二に再生可能エネルギーの導入拡大による「脱炭素社会への貢献」、そして第三にエネルギーの地産地消がもたらす「地域経済の活性化」です。これらの理由から、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を実現する上でも重要な役割を担っています。

導入にはコストや法整備といった課題も残りますが、電力の安定供給やエネルギーコストの削減など多くのメリットがあります。東松島市のような国内の先進事例も登場しており、マイクログリッドは私たちの暮らしを支え、持続可能な未来を築くための鍵となるエネルギーシステムと言えるでしょう。

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ゼロフィールド