会社の未来を考えたとき、事業承継は避けて通れない重要な経営課題です。

しかし「いつから、何から手をつければ良いのか」と悩む経営者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、事業承継を成功させる鍵が「早期の準備」と「計画的な実行」にあることを前提に、最適なタイミング、親族・従業員・M&Aといった3つの承継方法、具体的な準備の全5ステップを網羅的に解説します。

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目次
  1. 事業承継とは 会社の未来を繋ぐ重要な経営課題
    1. 1.1 事業承継で引き継がれる3つの要素
    2. 1.2 なぜ今、事業承継が社会問題となっているのか
      1. 1.2.1 経営者の高齢化と深刻な後継者不足
      2. 1.2.2 放置した場合のリスク:黒字廃業の増加
    3. 1.3 「事業承継」と「事業継承」の違い
  2. 事業承継を考え始めるべきタイミングはいつか
    1. 2.1 経営者の年齢から考えるタイミング
      1. 2.1.1 年齢別の検討ポイント
    2. 2.2 会社の状況から考えるタイミング
      1. 2.2.1 業績が好調なとき
      2. 2.2.2 後継者候補が見つかったとき
      3. 2.2.3 経営者自身の健康状態に不安を感じたとき
    3. 2.3 事業承継の準備期間から逆算する
  3. 事業承継の3つの方法とそれぞれの特徴
    1. 3.1 親族内承継
    2. 3.2 従業員承継(MBO・EBO)
    3. 3.3 第三者承継(M&A)
  4. 事業承継の準備で何から始めるか 全5ステップの進め方
    1. 4.1 ステップ1 現状把握と課題の洗い出し
    2. 4.2 ステップ2 事業承継計画の策定
    3. 4.3 ステップ3 後継者の育成と教育
    4. 4.4 ステップ4 株式や資産の移転
    5. 4.5 ステップ5 承継後の経営フォロー
  5. 事業承継で活用できる公的支援制度
    1. 5.1 事業承継・引継ぎ補助金
    2. 5.2 事業承継税制
      1. 5.2.1 特例措置の主な要件
      2. 5.2.2 納税猶予から免除までの流れ
  6. 事業承継の相談はどこにすべきか 専門家と相談窓口
    1. 6.1 事業承継・引継ぎ支援センター
    2. 6.2 金融機関
    3. 6.3 税理士や弁護士などの専門家
  7. まとめ

事業承継とは 会社の未来を繋ぐ重要な経営課題

事業承継とは、単に会社の代表者が交代することではありません。会社の経営権と資産、そして目に見えない知的資産を次世代の経営を担う後継者に引き継ぎ、事業の継続とさらなる発展を目指す一連の計画的な活動を指します。これは、創業者や現経営者が長年かけて築き上げてきた会社という大切なバトンを、未来へと繋ぐための重要な経営課題です。

特に、日本経済の根幹を支える中小企業において、経営者の高齢化と後継者不足は深刻な問題となっています。適切な準備を怠れば、優良な技術やサービス、雇用が失われる「廃業」という選択を迫られかねません。そのため、すべての経営者にとって、事業承継は決して他人事ではなく、早期から向き合うべきテーマなのです。

1.1 事業承継で引き継がれる3つの要素

事業承継では、主に「人(経営権)」「資産」「知的資産」という3つの要素を後継者に引き継ぐ必要があります。これらは相互に深く関連しており、どれか一つでも欠けると円滑な承継は実現できません。

承継する要素具体的な内容ポイント
人(経営権)経営の舵取り役となる後継者へ、代表取締役の地位や議決権の過半数を有する株式を集中させること。誰を後継者にするかを選定し、経営者としての育成を行う必要があります。経営判断力やリーダーシップの移譲が重要です。
資産会社の経営に必要な有形・無形の資産。具体的には、自社株式、事業用資産(設備・不動産)、運転資金など。株式や資産の移転には、贈与税や相続税などの税金問題が伴います。計画的な対策が不可欠です。
知的資産企業の競争力の源泉となる目に見えない資産。経営理念、独自の技術やノウハウ、特許、ブランド、顧客情報、取引先との人脈など。知的資産は企業の真の価値であり、円滑な承継が事業の継続性を左右します。これらを「見える化」し、後継者が確実に引き継げるように整理・準備することが求められます。

1.2 なぜ今、事業承継が社会問題となっているのか

近年、テレビや新聞などで「事業承継問題」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、単なる一企業の問題ではなく、日本経済全体に影響を及ぼす社会問題として認識されているためです。

1.2.1 経営者の高齢化と深刻な後継者不足

事業承継が喫緊の課題となっている最大の理由は、経営者の高齢化です。中小企業庁の調査によると、中小企業経営者の年齢のボリュームゾーンは年々右肩上がりに推移しており、2022年には60代〜70代以上が全体の半数以上を占めるまでになりました。引退の平均年齢が70歳前後であることを考えると、多くの企業が事業承継のタイミングを迎えていることがわかります。

しかし、その一方で後継者の確保は困難を極めています。かつては親族内での承継が一般的でしたが、価値観の多様化などにより、子どもが事業を引き継がないケースが増加。社内に適任者が見つからないことも多く、約6割の中小企業が後継者未定という状況にあります。(出典:2024年版「中小企業白書」中小企業庁

1.2.2 放置した場合のリスク:黒字廃業の増加

後継者が見つからないまま事業承継の準備を怠ると、最終的に「廃業」という道を選択せざるを得なくなります。特に深刻なのが、業績は好調で利益も出ているにもかかわらず、後継者がいないという理由だけで事業をやめてしまう「黒字廃業」です。

黒字廃業は、長年培ってきた独自の技術やノウハウ、従業員の雇用、そして地域経済の活力が失われることを意味し、日本全体にとって大きな損失です。こうした事態を避けるためにも、国や自治体は様々な支援策を打ち出し、早期の事業承継準備を促しています。

1.3 「事業承継」と「事業継承」の違い

ところで、「事業承継」とよく似た言葉に「事業継承」があります。日常会話では同じ意味で使われることもありますが、厳密にはニュアンスが異なります。

  • 事業承継:法律や制度上の権利・義務を含めて、事業を次の世代に「受け継ぎ、引き継ぐ」という公的な意味合いが強い言葉です。特に中小企業の経営交代の文脈で専門的に使われます。
  • 事業継承:身分や財産、精神、仕事などを「受け継ぐ」という一般的な意味合いで使われます。伝統芸能の継承など、より広い範囲で用いられる言葉です。

本記事では、中小企業の経営のバトンタッチを指す言葉として、公的にも広く用いられている「事業承継」に統一して解説を進めます。

事業承継を考え始めるべきタイミングはいつか

「事業承継はまだ先の話」と考えている経営者の方も多いかもしれません。しかし、事業承継は一朝一夕に完了するものではなく、準備には少なくとも5年、長ければ10年以上を要する長期的なプロジェクトです。会社の未来を左右する重要な経営課題だからこそ、経営者が心身ともに健康で、冷静な判断ができるうちに準備を始めることが、成功の絶対条件といえます。

では、具体的にいつから考え始めるべきなのでしょうか。本章では、「経営者の年齢」「会社の状況」「準備期間からの逆算」という3つの視点から、事業承継を検討すべき最適なタイミングを解説します。

2.1 経営者の年齢から考えるタイミング

事業承継を意識する最も分かりやすいきっかけは、経営者自身の年齢です。一般的に、60歳を一つの節目として、事業承継の準備を本格化させるのが望ましいとされています。

中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」においても、経営者の平均引退年齢が60代後半から70歳前後であるデータが示されており、そこから逆算すると60歳頃から準備を始めるのが現実的です。なぜなら、後継者の選定や育成、関係者への周知、株式や資産の移転手続きなど、やるべきことには多くの時間が必要だからです。

2.1.1 年齢別の検討ポイント

経営者の年代ごとに、事業承継に対してどのように向き合うべきか、そのポイントをまとめました。

年代検討すべきこと・行動
50代事業承継を「自分ごと」として意識し始める時期です。まずは会社の現状(経営状況、自社株の評価額、個人資産など)を客観的に把握し、漠然とでも将来のビジョンを考え始めましょう。後継者候補がいる場合は、その意向を確認することも大切です。
60代事業承継計画を具体的に策定し、実行に移していく時期です。後継者を正式に決定し、経営者としての帝王学や実務経験を積ませるための育成プランを開始します。同時に、株式移転のタイミングや方法、税金対策など、専門家を交えた具体的な検討を進める必要があります。
70代以降本来であれば、この年代では事業承継が完了しているか、最終段階に入っているのが理想です。もし準備が遅れている場合は、不測の事態に備え、早急に専門家へ相談し、実行可能な承継プランを最短で進めるべきです。経営判断能力が低下する前に、次世代へバトンを渡す決断が求められます。

2.2 会社の状況から考えるタイミング

経営者の年齢だけでなく、会社の置かれた状況も承継のタイミングを計る上で非常に重要です。最適なタイミングを逃すと、承継そのものが困難になる可能性もあります。

2.2.1 業績が好調なとき

意外に思われるかもしれませんが、事業承継を始めるのに最も適したタイミングは「会社の業績が好調なとき」です。業績が良いと会社の価値が高く評価されるため、後継者(特に親族外)が見つかりやすく、金融機関からの資金調達も有利に進められます。また、M&A(第三者承継)を選択する場合でも、より良い条件での売却が期待できます。経営者としては「まだやれる」という気持ちが強い時期ですが、会社の価値がピークにある時こそ、円滑な事業承継を実現する絶好の機会なのです。

2.2.2 後継者候補が見つかったとき

親族や社内に有望な後継者候補が現れたときも、事業承継を具体的に考え始めるべきタイミングです。たとえ候補者が若くても、経営者として一人前になるには相応の教育期間が必要です。候補者の意欲や適性を見極めながら、早期に育成計画をスタートさせることで、計画的かつ着実なバトンタッチが可能になります。

2.2.3 経営者自身の健康状態に不安を感じたとき

これは理想的なタイミングではありませんが、現実的に最も切実なきっかけの一つです。経営者に万が一のことがあった場合、準備ができていなければ、残された会社や従業員、家族は計り知れない混乱に見舞われます。相続による株式の分散で経営権が不安定になったり、後継者が不在で事業継続が困難になったりするケースは少なくありません。健康に不安を感じ始めたら、それは事業承継の準備を先延ばしにできない最後の警告と捉え、直ちに行動を起こすべきです。

2.3 事業承継の準備期間から逆算する

事業承継は、思い立ってすぐにできるものではありません。各ステップで必要な準備とかかる期間を理解し、引退したい時期から逆算してスケジュールを立てることが不可欠です。

以下の表は、事業承継の準備にかかる一般的な期間の目安です。

準備段階主な内容所要期間の目安
ステップ1:現状把握・計画策定経営課題の洗い出し、自社株評価、後継者候補のリストアップ、事業承継計画の骨子作成1年~2年
ステップ2:後継者教育経営ノウハウの伝授(OJT/Off-JT)、経営権限の段階的な委譲、社内外の関係者への紹介3年~5年
ステップ3:資産・株式の移転贈与・相続・売買の実行、事業承継税制などの公的支援の活用、種類株式などの手法検討1年~3年
ステップ4:承継後のフォロー代表取締役就任後の経営安定化支援、個人保証の解除、先代会長としてのサポート1年~

ご覧の通り、すべてのプロセスを完了するには、合計で5年から10年という長い年月がかかります。例えば、70歳で完全に引退したいのであれば、60歳、遅くとも65歳までには準備を開始しなければ間に合わない計算になります。会社の未来を確かなものにするためにも、「まだ早い」ではなく「今から始める」という意識を持つことが何よりも重要です。

事業承継の3つの方法とそれぞれの特徴

事業承継は、誰に事業を引き継ぐかによって、大きく3つの方法に分類されます。かつては親族内承継が主流でしたが、近年は後継者不足を背景に、従業員や第三者への承継が増加傾向にあります。中小企業庁の調査でも、M&A等の第三者への承継件数は年々増加しています。それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、自社の状況に合わせて最適な選択をすることが重要です。

ここでは、「親族内承継」「従業員承継(MBO・EBO)」「第三者承継(M&A)」の3つの方法について、それぞれの特徴を詳しく解説します。

3.1 親族内承継

親族内承継とは、経営者の子どもや配偶者、兄弟姉妹、甥・姪といった親族に事業を引き継がせる方法です。これまで日本の事業承継において最も一般的な手法でした。後継者となる親族がいる場合は、まず検討すべき選択肢と言えるでしょう。

最大の利点は、従業員や取引先、金融機関といった内外の関係者から心情的に受け入れられやすいことです。また、早い段階で後継者を決め、経営者としての教育を長期的に行える点も強みです。しかし、親族内に適任者がいない、または本人が継ぐ意思がないケースも少なくありません。複数の相続人がいる場合は、株式や資産の分配を巡ってトラブルに発展するリスクも考慮する必要があります。

メリットデメリット・課題
内外の関係者から理解を得やすい 後継者を早期に決定し、長期的な育成が可能 相続や贈与により株式・資産の移転が比較的容易 経営理念や企業文化を維持しやすい親族内に適任者や承継の意思がある者がいるとは限らない 後継者候補が複数いる場合、相続トラブルのリスクがある 後継者の経営能力が不足している可能性がある 後継者の株式買取資金や、相続税・贈与税の負担が大きい

3.2 従業員承継(MBO・EBO)

従業員承継とは、会社の役員や従業員の中から後継者を選び、事業を引き継ぐ方法です。役員が引き継ぐ場合をMBO(Management Buyout)、従業員が引き継ぐ場合をEBO(Employee Buyout)と呼びます。親族内に後継者がいない場合に、有力な選択肢となります。

長年会社に貢献してきた役員や従業員が後継者となるため、事業内容や経営理念への理解が深く、承継後も経営の一貫性を保ちやすい点が大きなメリットです。他の従業員からの反発も少なく、組織の一体感を維持しながらスムーズな引き継ぎが期待できます。一方で、最大の課題は「資金調達」です。後継者個人に株式を買い取るための十分な資金がないケースが多く、金融機関からの融資やファンドの活用、現経営者からの支援など、多角的な資金計画が不可欠となります。

メリットデメリット・課題
社内の事情に精通しており、スムーズな引き継ぎが可能 経営方針や企業文化を維持しやすい 他の従業員の士気向上に繋がる 親族内に後継者がいない場合の有力な選択肢となる後継者となる役員・従業員に株式の買取資金がない 現経営者の個人保証の引き継ぎが困難な場合がある 親族株主など、他の株主から反対される可能性がある 経営者としての資質や覚悟が不足している場合がある

3.3 第三者承継(M&A)

第三者承継とは、M&A(Mergers and Acquisitions)の手法を用いて、社外の企業や個人に会社や事業を売却(譲渡)する方法です。親族や社内に後継者が見つからない場合の最終手段と捉えられがちでしたが、近年では会社の成長戦略の一環として積極的に活用されるケースも増えています。

M&Aの最大のメリットは、後継者不在の問題を解決できるだけでなく、創業者利益(売却益)を得られる点です。これにより、現経営者はリタイア後の生活資金を確保できます。また、譲渡先の持つ販路や技術、資金力といった経営資源を活用することで、自社単独では難しかった事業の成長や、従業員の雇用の安定・待遇改善が期待できることも魅力です。ただし、希望する条件(売却価格、従業員の雇用維持など)に合う買い手を見つける必要があり、交渉の過程で企業文化の不一致や情報漏洩といったリスクも伴います。こうしたプロセスを円滑に進めるためには、M&A仲介会社や金融機関といった専門家のサポートが欠かせません。M&Aに関する詳しい情報は、中小企業庁が公開している「中小M&Aガイドライン」も参考になります。

メリットデメリット・課題
後継者不在問題を解決できる 幅広い候補者の中から最適な相手先を選べる 現経営者が創業者利益(売却益)を獲得できる 譲渡先の経営資源を活用し、事業のさらなる成長が期待できる 従業員の雇用を維持・安定させやすい希望する条件に合う買い手が見つからない可能性がある 経営理念や企業文化が大きく変わることがある 従業員の雇用や労働条件が維持されないリスクがある 交渉の過程で機密情報が漏洩するリスクがある 承継後の統合プロセス(PMI)がうまくいかない場合がある

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事業承継の準備で何から始めるか 全5ステップの進め方

事業承継は、思い立ったその日にできるものではありません。会社の未来を左右する重要な経営課題であり、成功のためには長期的な視点での計画的な準備が不可欠です。一般的に、事業承継の準備には5年から10年程度の期間が必要と言われています。後継者の育成や株式・資産の移転には時間がかかるため、早期に着手することが円滑な承継の鍵となります。ここでは、何から手をつければよいか分からない経営者のために、準備の全手順を5つのステップに分けて具体的に解説します。

4.1 ステップ1 現状把握と課題の洗い出し

事業承継準備の最初のステップは、自社の現状を客観的かつ正確に把握することです。これが全ての準備の土台となります。経営者自身の感覚的な理解だけでなく、客観的なデータや資料に基づいて会社の「見える化」を行い、誰が見てもわかる状態に整理することが重要です。

具体的には、以下の3つの側面から現状を分析し、課題を洗い出します。

  • 経営資源の把握(会社のこと)
    • 人(経営陣・従業員): 経営者自身の経営能力、後継者候補の有無や適性、従業員の年齢構成やスキル、キーパーソンは誰かなどを整理します。
    • 資産(有形・無形): 決算書や試算表に基づく財務状況、不動産や設備といった有形資産に加え、技術力、独自のノウハウ、特許、ブランド価値、顧客リストといった目に見えない「知的資産」の棚卸しも極めて重要です。
    • 経営権(株式): 誰がどれくらいの株式を保有しているか(株主名簿の確認)、株式が親族や従業員に分散していないか、現在の自社株の評価額はいくらかなどを確認します。
  • 経営者個人の状況把握(個人資産のこと)
    • 経営者個人が所有する資産(自社株、事業用の不動産、個人の預貯金など)と負債(金融機関からの借入金、個人保証など)の全体像を把握します。
    • 万が一に備え、現時点で相続が発生した場合の相続税がどのくらいになるかシミュレーションしておくことも大切です。
  • 課題の整理
    • 上記の分析結果をもとに、事業承継を進める上での課題(例:後継者が見つからない、株式が分散していて集約が難しい、自社株の評価額が高く税負担が重い、多額の個人保証があるなど)を具体的にリストアップします。

4.2 ステップ2 事業承継計画の策定

ステップ1で洗い出した現状と課題をもとに、具体的な「事業承継計画書」を策定します。この計画書は、関係者全員が共通の認識を持ち、事業承継という長期的なプロジェクトを円滑に進めるための羅針盤となるものです。

事業承継計画書には、一般的に以下の項目を盛り込みます。中小企業庁がウェブサイトで公開している「事業承継ガイドライン」なども参考に、自社の実情に合わせて作成しましょう。

  • 事業承継の基本方針: いつまでに、誰に(親族・従業員・第三者)、どのような方法で承継するのかという大枠を定めます。
  • 会社の現状と課題: ステップ1で整理した内容を明記します。
  • 中長期的な経営ビジョン: 承継時期までの経営改善目標や、承継後の会社の将来像を描きます。
  • 後継者の選定と育成計画: 後継者候補の名前と、その育成に関する具体的なスケジュールやプログラムを定めます。
  • 株式・資産の承継計画: 株式や事業用資産をいつ、どのような方法(贈与、相続、売買など)で移転するかの具体的なプランを立てます。税金対策もこの段階で検討します。
  • 資金計画: 承継に必要な資金(後継者による株式買取資金、納税資金など)を算出し、その調達方法を計画します。
  • 詳細なスケジュール: 各ステップの実行時期を定めた年次計画(アクションプラン)を作成します。

事業承継計画は一度作って終わりではなく、経営環境の変化や後継者の成長度合いに応じて、定期的に見直し、更新していくことが成功の秘訣です。

4.3 ステップ3 後継者の育成と教育

後継者が決まったら、経営者として必要な知識、スキル、経験を身につけさせるための育成期間に入ります。この期間は、後継者の能力やそれまでの経験に応じて調整が必要ですが、一般的には5年から10年程度の長期的な視点で計画的に進めるのが理想です。

後継者育成は、単に業務を教えるだけでなく、経営者としての自覚とリーダーシップを育むことが目的です。具体的には、以下のようなプログラムを組み合わせます。

  • 社内での実務経験(ジョブローテーション): 製造、営業、開発、経理、人事など、社内の主要な部署を複数経験させ、事業全体を俯瞰する視点を養います。従業員との信頼関係を築く上でも重要なプロセスです。
  • 社外での武者修行: 取引先や同業他社、関連会社など、一度社外に出て働く経験をさせます。自社を客観的に見る視点や新たな人脈、自社にはない経営手法や企業文化を学ぶ貴重な機会となります。
  • 経営者としての教育(帝王学): 現経営者とのOJT(On-the-Job Training)を通じて、経営判断のプロセスを間近で学ばせます。重要な会議に同席させたり、一部の事業部門の責任者として権限を委譲したりして、徐々に経営の舵取りを任せていきます。また、中小企業大学校などの経営者向け研修やセミナーに参加させることも非常に有効です。

4.4 ステップ4 株式や資産の移転

事業承継において、最も専門的な知識が求められ、トラブルが発生しやすいのが株式や事業用資産の移転です。会社の経営権そのものである株式の移転には、多額の税金(贈与税、相続税、所得税)が発生する可能性があるため、必ず税理士などの専門家と相談しながら慎重に進める必要があります。

株式の移転方法は、主に以下の3つです。それぞれにメリット・デメリットがあるため、事業承継計画に基づき、自社の状況に合わせて最適な方法を選択します。

移転方法メリットデメリット
生前贈与経営者の意思に基づき、計画的に株式を後継者に移転できる。暦年贈与や相続時精算課税制度、事業承継税制(特例措置)などを活用して税負担を軽減できる可能性がある。贈与税の負担が発生する可能性がある。一度に多くの株式を移転すると税負担が重くなるため、長期的な計画が必要。
相続後継者は資金を用意することなく株式を取得できる。経営者の死亡により突然発生するため、経営の空白期間が生まれるリスクがある。相続人間で遺産分割を巡るトラブル(「争続」)に発展する可能性がある。相続税の納税資金が必要になる。
売買(譲渡)現経営者は株式の売却によって引退後の生活資金を確保できる。後継者以外の相続人の遺留分を侵害するリスクを低減できる。後継者に株式の買取資金が必要になる。適正な株価(時価)で取引しないと、差額が贈与とみなされ、思わぬ税金が発生するリスクがある。

非上場株式の評価額は、会社の業績や資産状況によって大きく変動します。株価が高い時期に移転すると税負担が重くなるため、役員退職金を支給して利益を圧縮するなど、計画的に株価を引き下げてから移転する対策も検討されます。いずれにせよ、専門家のアドバイスなしに自己判断で進めるのは非常に危険です。

4.5 ステップ5 承継後の経営フォロー

株式や代表権の移転が完了しても、事業承継は終わりではありません。むしろ、ここからが新しい経営の本当のスタートです。承継後の経営を早期に安定させ、会社をさらなる成長軌道に乗せるためのフォローアップが欠かせません。

特に承継直後は、新体制に対する従業員や取引先の不安を払拭し、後継者がリーダーシップを発揮しやすい環境を整えることが旧経営者の最後の重要な役割となります。

具体的なフォローアップ内容は以下の通りです。

  • 新経営体制の周知徹底: 後継者とともに主要な取引先や金融機関へ挨拶回りを行い、新体制への理解と協力を直接求めます。社内に対しても、朝礼や全体会議の場で後継者から今後の経営方針を明確に伝え、従業員の不安を取り除きます。
  • 旧経営者の適切な関与と引退: 旧経営者は会長や相談役といった立場で後継者をサポートしますが、いつまでも経営の細部に口を出し続けるのは後継者の成長を妨げ、従業員の混乱を招きます。徐々に距離を取り、完全に引退する「引き際」をあらかじめ決めておくことが肝心です。
  • 経営理念の再確認と浸透: 承継を機に、会社の存在意義である経営理念を改めて見直し、後継者自身の言葉で全従業員に語りかけることで、組織の一体感を醸成します。
  • 経営状況のモニタリング: 事業承継計画通りに経営が進んでいるか、旧経営者や専門家も交えて定期的に確認し、問題があれば早期に軌道修正を行います。

事業承継で活用できる公的支援制度

事業承継には、株式の買取資金や相続税・贈与税の納税資金、M&Aの仲介手数料など、多額のコストが発生する可能性があります。こうした資金的な負担は、事業承継をためらう大きな要因の一つです。しかし、国や地方自治体は中小企業の円滑な事業承継を後押しするため、様々な公的支援制度を用意しています。ここでは、代表的な2つの制度である「事業承継・引継ぎ補助金」と「事業承継税制」について詳しく解説します。

5.1 事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継やM&Aをきっかけとした中小企業の新たな挑戦を支援するための制度です。事業承継にかかる専門家への依頼費用や、承継後の設備投資、販路開拓費用など、幅広い経費が補助対象となります。この補助金は、主に3つの類型に分かれています。

類型主な内容対象となる主な経費
経営革新事業事業承継やM&Aを契機に、経営革新等(商品・サービスの開発、生産性向上など)に取り組む費用を補助します。設備投資費用、店舗・事務所の改修費用、販路開拓費用、マーケティング調査費用など
専門家活用事業M&Aによる事業承継の際に、専門家(M&A支援機関など)の活用にかかる費用を補助します。買い手・売り手ともに利用可能です。仲介手数料、デューデリジェンス費用、企業価値評価費用、セカンドオピニオン費用など
廃業・再チャレンジ事業M&Aが成立せず、やむなく廃業する際に、廃業にかかる費用を補助します。廃業支援費用、在庫廃棄費用、原状回復費用など

補助金の公募要領や補助率、上限額は毎年見直されるため、利用を検討する際は、中小企業庁のウェブサイトなどで最新の情報を確認することが重要です。申請には詳細な事業計画書の提出が求められるため、早めに準備を始め、必要に応じて専門家のサポートを受けることをお勧めします。詳しくは中小企業庁の「事業承継・引継ぎ補助金」のページをご確認ください。

5.2 事業承継税制

事業承継税制(正式名称:非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の制度)は、後継者が会社の株式等を先代経営者から贈与または相続によって取得した際に、本来納めるべき贈与税や相続税の納税が猶予され、最終的には免除される画期的な制度です。この制度を活用することで、税負担を理由に事業承継を断念する事態を防ぐことができます。

現在、要件が緩和され、対象が大幅に拡充された「特例措置」が設けられています。この特例措置を利用するには、2026年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県庁に提出し、確認を受ける必要があります。

5.2.1 特例措置の主な要件

事業承継税制(特例措置)の適用を受けるためには、会社、先代経営者(贈与者・被相続人)、後継者(受贈者・相続人)がそれぞれ一定の要件を満たす必要があります。主な要件は以下の通りです。

対象主な要件
会社中小企業者であること 非上場会社であること 資産管理会社に該当しないこと 風俗営業会社に該当しないこと
先代経営者(贈与者・被相続人)会社の代表権を有していたことがあること 贈与時(または相続開始直前)に代表権を有していないこと(特例あり) 贈与時(または相続開始直前)に、後継者と合わせて総議決権数の50%超を保有し、かつ、後継者を除いた中で筆頭株主であったこと
後継者(受贈者・相続人)贈与時に18歳以上(相続の場合は年齢要件なし)であること 贈与時(または相続時)に会社の代表権を有していること 贈与時(または相続時)に役員に就任してから3年以上が経過していること 後継者とその関係者で総議決権数の50%超を保有することになること

上記はあくまで主な要件であり、実際にはさらに細かい規定があります。適用を検討する際は、必ず税理士などの専門家に相談してください。

5.2.2 納税猶予から免除までの流れ

納税猶予が認められた後、一定の要件を満たすことで、猶予されていた税額が最終的に免除されます。一般的な流れは以下の通りです。

  1. 特例承継計画の策定・提出:会社の状況や後継者教育などについて計画を策定し、都道府県庁に提出します。(提出期限:2026年3月31日)
  2. 贈与・相続の実行:計画に基づき、先代経営者から後継者へ株式を贈与または相続します。
  3. 納税猶予の申請:贈与税または相続税の申告期限までに、税務署へ納税猶予の申請を行います。
  4. 事業継続要件の充足:申告期限から5年間は、雇用の8割維持や代表権の継続など、定められた要件を満たし続ける必要があります。この間、毎年、都道府県庁と税務署への報告が義務付けられます。
  5. 納税の免除:後継者が死亡した場合や、次の後継者に再び事業承継税制を適用して株式を贈与した場合などに、猶予されていた税額が免除されます。

もし事業継続要件を満たせなくなった場合や、株式を売却した場合には、猶予されていた税額全額と利子税を合わせて一括で納付しなければならないリスクもあります。制度のメリットとリスクを十分に理解した上で、計画的に活用することが不可欠です。制度の詳細については、中小企業庁の「事業承継税制特集」もご参照ください。

事業承継の相談はどこにすべきか 専門家と相談窓口

事業承継は、税務・法務・財務・労務など多岐にわたる専門知識を要する複雑なプロセスです。経営者一人の力ですべてを円滑に進めることは極めて困難であり、準備段階から専門家のサポートを得ることが成功の鍵となります。しかし、「誰に」「何を」相談すればよいのか分からないという方も多いでしょう。ここでは、事業承継の主な相談先とその特徴について詳しく解説します。

6.1 事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、国(中小企業庁)が全国47都道府県に設置している公的な相談窓口です。中小企業の事業承継を中立的な立場で無料でサポートしてくれる、最初の相談先として最もおすすめの機関です。

センターには事業承継に精通した専門家が常駐しており、親族内承継から第三者承継(M&A)まで、あらゆる承継方法に関する相談に対応しています。自社の状況を整理し、何から手をつけるべきかといった初期段階の悩みから、具体的な課題解決まで、親身にアドバイスを提供してくれます。また、必要に応じて弁護士や税理士、M&A専門家などを紹介してくれる「ハブ」としての機能も担っています。後継者不在の企業に対しては、登録された起業家や企業とマッチングを行う「後継者人材バンク」事業も展開しており、新たな可能性を見出すきっかけにもなります。まずは気軽に相談してみると良いでしょう。(参考:事業承継・引継ぎ支援センター(中小企業庁)

6.2 金融機関

日頃から取引のあるメガバンク、地方銀行、信用金庫などの金融機関も、身近な相談先の一つです。長年の付き合いから自社の経営状況や財務内容を深く理解しているため、実情に即したアドバイスが期待できます

特に、事業承継には後継者による株式の買取資金や、相続税・贈与税の納税資金など、多額の資金が必要となるケースが少なくありません。金融機関は資金調達のプロフェッショナルであるため、融資の相談にスムーズに対応できるのが最大の強みです。また、独自のネットワークを活かしてM&Aの相手先候補を紹介したり、提携している専門家チームによるコンサルティングサービスを提供したりしている場合もあります。まずは取引支店の担当者に事業承継を検討している旨を伝えてみましょう。

6.3 税理士や弁護士などの専門家

事業承継の具体的な手続きを進める上では、各分野の専門家との連携が不可欠です。顧問税理士などがいる場合でも、事業承継に関する知識や経験が豊富とは限りません。セカンドオピニオンを求める意味でも、事業承継に特化した専門家を探すことをおすすめします。それぞれの専門家の役割は以下の通りです。

専門家主な相談内容・役割選ぶ際のポイント
税理士自社株の評価、相続税・贈与税額のシミュレーション、事業承継税制の適用支援、組織再編に関する税務アドバイス顧問税理士が第一候補ですが、事業承継税制など特殊な税務に精通しているか確認が必要です。実績豊富な専門家を探すのが賢明です。
弁護士遺言書の作成、遺産分割協議のサポート、種類株式の発行、M&Aにおける契約書作成や法務デューデリジェンス(法務DD)親族間のトラブル(争族)を未然に防ぐための法的な手続きや、M&Aにおける法的リスクの洗い出しに不可欠な存在です。
公認会計士企業価値評価(バリュエーション)、財務デューデリジェンス(財務DD)、資本政策のアドバイスM&Aにおいて、会社の財産や収益力を客観的に評価し、適正な売買価格を算定する際に中心的な役割を果たします。
司法書士不動産の名義変更登記、株式譲渡に伴う役員変更登記などの商業登記株式や事業用資産の移転に伴う、法的に必須となる各種登記手続きを代行します。
中小企業診断士事業承継計画の策定支援、後継者への経営ノウハウの指導、経営改善コンサルティング、補助金の申請支援経営全般の視点から、承継後の事業成長までを見据えた計画策定をサポートしてくれます。
M&A仲介会社・FAM&Aの相手先候補の探索(ソーシング)、交渉の仲介、企業価値評価、契約締結までの一連のプロセス支援第三者承継を具体的に検討している場合に相談します。幅広いネットワークと専門的な交渉ノウハウを持っています。

これらの専門家はそれぞれ得意分野が異なります。自社の課題や承継方法に応じて、適切な専門家を個別に、あるいはチームとして選定・活用していくことが、事業承継を成功に導くための重要なポイントとなります。どの専門家に相談すべきか迷った場合は、まず中立的な立場である事業承継・引継ぎ支援センターに相談し、自社の状況を整理してもらうと良いでしょう。

まとめ

事業承継は、会社の未来を繋ぐ重要な経営課題です。後継者の育成や資産の移転には数年単位の時間を要するため、経営者が元気なうちに早期に着手することが成功の鍵となります。

承継方法には親族内、従業員、M&A(第三者承継)があり、自社の状況に合った最適な選択が求められます。まずは現状把握から始め、計画的に準備を進めましょう。事業承継・引継ぎ支援センターや税理士といった専門家、補助金や税制などの公的支援も積極的に活用し、円滑な承継を実現してください。

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ゼロフィールド