「即時償却」という言葉をご存知ですか?設備投資の費用を初年度に一括で経費計上できる、非常に有利な節税制度です。この記事を読めば、即時償却の基本的な仕組み、通常の減価償却との違い、メリットとデメリットが明確になります。さらに、中小企業等経営強化税制を活用した具体的な申請方法から注意点まで、賢い設備投資を実現するための全てがわかります。
即時償却とは何か 基本をわかりやすく解説
設備投資は企業の成長に不可欠ですが、その費用負担は決して小さくありません。そんな中、賢く活用したいのが「即時償却」という制度です。この章では、即時償却の基本的な意味や仕組み、通常の減価償却との違い、そしてメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。
1.1 即時償却の定義と基本的な仕組み
即時償却とは、企業が事業のために機械装置や器具備品などの設備投資を行った際に、その取得価額の全額を取得した事業年度の経費(損金)として一括で計上できる会計処理・税務処理の方法を指します。通常、高額な設備(固定資産)は、法律で定められた耐用年数にわたって毎年少しずつ経費として計上していく「減価償却」という手続きを取りますが、即時償却はこの手続きの特例です。
この特例を利用することで、設備投資を行った初年度に大きな費用を計上できるため、その年度の利益を圧縮し、結果として法人税などの税負担を大幅に軽減する効果が期待できます。ただし、即時償却はどのような設備投資でも無条件に認められるわけではありません。多くの場合、国が定める特定の政策目的(例えば、中小企業の生産性向上や経営力強化など)を達成するための税制優遇措置の一環として提供されます。代表的なものに「中小企業等経営強化税制」があり、この制度の適用を受けることで即時償却を選択できるようになります。詳細については、中小企業庁の経営サポート「経営強化法による支援」のページもご参照ください。
1.2 通常の減価償却との違いを比較解説
即時償却と通常の減価償却は、設備投資にかかった費用を経費として計上するタイミングと金額が大きく異なります。その違いを理解するために、以下の表で比較してみましょう。
項目 | 即時償却 | 通常の減価償却 |
---|---|---|
費用計上のタイミング | 設備を取得し事業の用に供した初年度に一括 | 法定耐用年数にわたり毎年分割 |
初年度の経費計上額 | 取得価額の全額 | 取得価額を耐用年数で割った額(定額法の場合の原則)など、計算方法に基づく一部の金額 |
節税効果のタイミング | 初年度に集中して大きな効果 | 耐用年数にわたり平準化された効果 |
会計処理・税務処理 | 税法上の特例措置に基づく処理 | 原則的な会計処理・税務処理 |
翌年度以降の減価償却費 | なし(初年度に全額計上済みのため) | 耐用年数が終わるまで継続して発生 |
このように、即時償却は初年度に大きな節税メリットを享受できる点が最大の特徴です。一方、通常の減価償却は、費用負担を長期間にわたって平準化する考え方に基づいています。どちらが良いかは企業の財務状況や経営戦略によって異なりますが、早期に資金を回収し、次の投資に繋げたい場合には即時償却が有効な選択肢となり得ます。
1.3 即時償却のメリットとデメリットを理解する
即時償却は大きな節税効果が期待できる魅力的な制度ですが、メリットだけでなくデメリットも存在します。活用を検討する際には、双方を十分に理解しておくことが重要です。
1.3.1 メリット
- 大幅な節税効果(初年度): 設備投資額の全額をその期の損金として算入できるため、課税対象となる所得を大きく圧縮し、法人税や所得税の負担を軽減できます。これは特に利益が出ている企業にとって大きなメリットです。
- キャッシュフローの改善: 税金の支払いが減ることで、手元に残る資金(キャッシュフロー)が増加します。これにより、資金繰りが楽になったり、新たな投資や事業展開のための資金を確保しやすくなったりします。
- 設備投資の早期回収: 投資額を早期に費用として回収できる(税負担軽減という形で)ため、実質的な投資回収期間が短縮されます。これにより、再投資への意思決定を早めることができます。
- 最新設備導入の促進: 節税というインセンティブがあることで、企業は生産性向上や競争力強化に繋がる最新設備への投資に踏み出しやすくなります。
1.3.2 デメリット
- 翌年度以降の減価償却費がない: 初年度に全額償却するため、翌年度以降はその設備に関する減価償却費を計上できません。これにより、他の条件が同じであれば、翌年度以降の利益が相対的に大きく見え、税負担が増加する可能性があります。短期的な節税効果は大きいものの、長期的な視点での税負担の変動も考慮する必要があります。
- 赤字企業には効果が限定的: 即時償却は課税所得を減らすことで節税効果を発揮するため、そもそも利益が出ていない赤字企業や、課税所得が少ない企業にとっては、そのメリットを十分に享受できない場合があります。ただし、繰越欠損金との関係など、個別の状況に応じた検討が必要です。
- 適用には厳格な要件がある: 即時償却は、特定の税制優遇措置(例:中小企業等経営強化税制)の適用を受ける必要があり、対象となる企業や設備、手続きには細かな要件が定められています。これらの要件を満たさなければ利用できません。
- 税務調査で指摘されるリスク: 特例的な税制優遇であるため、税務調査の際に適用要件を満たしているかどうかが厳しくチェックされる可能性があります。そのため、証拠書類の適切な保存や、専門家への相談が重要になります。
- 資金繰りへの直接的な影響(初期投資): 即時償却はあくまで税務上の処理であり、設備取得のための初期費用が免除されるわけではありません。設備購入のための資金は別途必要であり、節税効果は納税時に現れるため、その間の資金繰りも考慮に入れる必要があります。
即時償却を検討する際は、これらのメリット・デメリットを総合的に比較し、自社の経営状況や将来計画に照らし合わせて慎重に判断することが求められます。
中小企業等経営強化税制とは 即時償却活用のポイント
中小企業等経営強化税制は、中小企業や小規模事業者などが経営力を向上させるための設備投資を支援する制度です。この税制を活用することで、設備取得価額の全額をその事業年度の経費として計上できる「即時償却」、または取得価額の7%もしくは10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選択適用できます。本章では、この中小企業等経営強化税制の概要と、即時償却を活用するためのポイントを詳しく解説します。
2.1 中小企業等経営強化税制の概要と目的
中小企業等経営強化税制は、中小企業等経営強化法に基づき、中小企業者が策定する「経営力向上計画」の認定を受けた場合に、その計画に基づいて行う設備投資に対して税制上の優遇措置を講じるものです。この制度の主な目的は、中小企業の生産性向上や収益力強化を後押しし、日本経済の活性化に寄与することにあります。
具体的には、人手不足への対応、働き方改革の推進、国際競争力の強化、事業承継の円滑化など、中小企業が抱える様々な経営課題の解決を支援します。税制措置以外にも、金融支援や法的支援など、多角的なサポートが用意されていますが、この記事では特に即時償却という強力な節税効果をもたらす税制措置に焦点を当てています。制度の詳細は、中小企業庁のウェブサイトで確認できます。
2.2 なぜこの税制で即時償却が選択できるのか
中小企業等経営強化税制において即時償却が選択できるのは、中小企業の積極的な設備投資を強力に後押しするためです。通常、設備投資にかかった費用は、法定耐用年数に応じて数年間にわたり減価償却費として経費計上されます。しかし、即時償却を適用すれば、設備を取得し事業の用に供した年度に、その取得価額の全額を損金(経費)として算入できます。
これにより、設備投資を行った年度の課税所得を大幅に圧縮でき、結果として法人税等の納税額を大きく減らす効果が期待できます。納税負担が軽減されることでキャッシュフローが改善し、その資金をさらなる投資や事業運営に充てることが可能になります。このように、即時償却は中小企業の財務体質強化と成長サイクルの加速を目的として設けられた、非常にメリットの大きい選択肢と言えるでしょう。
2.3 即時償却の対象となる中小企業者等の条件
中小企業等経営強化税制における即時償却の対象となる「中小企業者等」は、以下のいずれかの条件を満たす法人または個人事業主です。ただし、適用除外事業者(前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人など)に該当しないことが前提となります。
区分 | 条件 |
---|---|
資本金または出資金の額 | 1億円以下の法人 |
資本または出資を有しない法人 | 常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 |
個人事業主 | 常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人 |
協同組合等 | 中小企業等協同組合、企業組合、協業組合、事業協同組合、商工組合など |
※上記に加え、大規模法人(資本金1億円超の法人、資本金5億円以上の法人等の100%子会社など)から2分の1以上の出資を受ける法人や、複数の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人は対象外となる場合があります。詳細な条件については、必ず中小企業庁の「経営サポート「経営強化税制」」のページや税理士にご確認ください。
2.4 即時償却の対象となる設備の種類と具体的な要件
中小企業等経営強化税制で即時償却の対象となる設備は、経営力向上計画の認定を受けた上で取得する特定の設備に限られます。設備は、その性質や目的によって以下の4つの類型に分類され、それぞれに具体的な要件が定められています。
2.4.1 生産性向上設備(A類型)とは
生産性向上設備(A類型)は、企業の生産効率やエネルギー効率の向上に直接的に貢献する設備を指します。この類型で即時償却の適用を受けるためには、以下の主要な要件を満たす必要があります。
- 一定期間内に販売が開始されたモデルであること(通常、10年以内)。
- 旧モデルと比較して、生産性が年平均1%以上向上する設備であること。この証明は、工業会等が発行する証明書によって行われます。
- 取得価額が、機械装置であれば1台または1基あたり160万円以上、工具器具備品であれば30万円以上、ソフトウェアであれば70万円以上(複数のソフトウェアを同時に導入する場合はその合計額)であること。
具体例としては、最新鋭のNC工作機械、高効率ボイラー、産業用ロボット、自動倉庫システム、測定・検査機器などが挙げられます。
2.4.2 収益力強化設備(B類型)とは
収益力強化設備(B類型)は、企業の新たな商品開発やサービス展開、生産プロセスの革新などを通じて収益力の強化に資する設備が対象です。この類型は、A類型に該当しないオーダーメイドの設備や、まだ市場に広く出回っていない先進的な設備も対象となり得ます。
- 経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された設備であること。
- その投資計画において、投資利益率が年平均5%以上となることが見込まれることについて、認定経営革新等支援機関(税理士、公認会計士、金融機関など)の確認を受ける必要があります。
- 取得価額の合計額が120万円以上であること。
具体例としては、新製品開発のための3Dプリンター、新サービス提供のための専用システム、顧客データ分析用の高度なソフトウェア、特殊な製造ラインなどが考えられます。
2.4.3 デジタル化設備(C類型)とは
デジタル化設備(C類型)は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、事業プロセスの遠隔操作、可視化、自動化などを可能にする設備を対象とします。働き方改革や生産性向上に寄与するデジタル投資を支援するものです。
- 経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた事業計画に記載された設備であること。
- その事業計画において、労働生産性が年平均2%以上向上する、または年平均の投資利益率が1%以上となることが見込まれることについて、認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があります。
- 取得価額の合計額が、ソフトウェアやクラウドサービス利用料の場合は50万円以上、それ以外の設備の場合は30万円以上であること。
具体例としては、ERP(統合基幹業務システム)、SFA(営業支援システム)、CRM(顧客関係管理システム)、AI・IoT関連設備、サイバーセキュリティ対策製品、クラウドサービスの利用料(一定期間分)などが該当します。
2.4.4 経営資源集約化設備(D類型)とは
経営資源集約化設備(D類型)は、M&A(合併、会社分割、事業譲渡など)を行った事業者が、その効果を最大限に引き出すために行う設備投資を支援するものです。事業承継や事業再編後の生産性向上や経営基盤強化を目的としています。なお、株式取得によるM&Aは対象外です。
- 経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された設備であること。
- その投資計画において、M&A後の修正ROA(総資本事業利益率)または有形固定資産回転率が一定割合以上上昇する見込みであることについて、認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があります。
- 取得価額の合計額が100万円以上であること。
具体例としては、被買収企業の老朽化した設備を刷新するための最新鋭機械、事業統合に伴う新たな基幹システムの導入、生産拠点の集約に伴う効率化設備などが考えられます。
これらの類型と要件は変更される可能性があるため、設備投資を検討する際には、必ず最新の情報を中小企業庁のウェブサイトや専門家にご確認ください。
中小企業等経営強化税制で即時償却を活用する具体的な手順
中小企業等経営強化税制を活用して即時償却の適用を受けるためには、いくつかのステップを確実に実行する必要があります。ここでは、その具体的な手順を3つのステップに分けて詳しく解説します。計画の策定から税務申告まで、それぞれの段階で重要なポイントを押さえていきましょう。
3.1 ステップ1 経営力向上計画の策定と認定申請
即時償却を利用するための最初の関門は、「経営力向上計画」を策定し、国の認定を受けることです。この計画は、自社の経営力を向上させるための具体的な目標と方策を示すものであり、設備投資もその一環として位置づけられます。
経営力向上計画には、主に以下の項目を記載します。
- 現状認識(自社の事業概要、経営状況の分析)
- 経営力向上の目標(具体的な指標、達成時期)
- 経営力向上の内容(実施する取り組み、設備投資の詳細、資金計画など)
- 事業分野別指針や基本方針との関連性
計画の策定にあたっては、具体的かつ実現可能な内容であることが重要です。数値目標を設定し、その達成に向けたプロセスを明確にすることで、審査機関の理解を得やすくなります。
策定した経営力向上計画は、事業分野に応じて主務大臣(実質的には各地方経済産業局など)に申請します。申請に必要な書類は、申請書本体のほか、事業概要書、直近の財務諸表、設備投資に関する資料(見積書、カタログなど)が一般的です。詳細については、中小企業庁が公開している「経営力向上計画策定の手引き」などを必ず確認してください。
申請後、審査が行われ、計画が適切であると認められると認定通知書が発行されます。この認定を受けて初めて、次のステップに進むことができます。認定までには一定の期間(通常1ヶ月~2ヶ月程度)を要するため、設備投資のスケジュールを考慮して早めに準備を始めることが肝心です。
3.2 ステップ2 対象設備の取得と事業への供用
経営力向上計画の認定を受けたら、次はその計画に基づいて対象となる設備を取得し、事業の用に供します。ここで最も重要なポイントは、必ず経営力向上計画の認定後に設備を取得・製作・建設することです。認定前に取得した設備は、原則として即時償却の対象となりませんので十分注意してください。
「取得」には、購入だけでなく、自社での製作や建設も含まれます。また、「事業の用に供した日」とは、その設備を実際に事業活動に使用し始めた日を指し、この日付が税務申告において重要になります。
取得する設備が、中小企業等経営強化税制の対象となる設備(A類型~D類型)のいずれかに該当することを証明する書類も必要です。具体的には、以下のいずれかを取得・保管します。
設備類型 | 必要な証明書類(主なもの) | 発行元(主なもの) |
---|---|---|
生産性向上設備(A類型) | 工業会等による証明書 | 各設備メーカーが所属する工業会など |
収益力強化設備(B類型) | 経済産業局による確認書(投資計画に関する確認書) | 経済産業局(認定経営革新等支援機関による事前確認が必要) |
デジタル化設備(C類型) | 経済産業局による確認書(投資計画に関する確認書) | 経済産業局(認定経営革新等支援機関による事前確認が必要) |
経営資源集約化設備(D類型) | 経済産業局による確認書(投資計画に関する確認書) | 経済産業局(認定経営革新等支援機関による事前確認が必要な場合あり) |
これらの証明書類は、設備取得前に手続きを開始し、取得日までに発行されていることが理想です。特にB類型、C類型、D類型の場合は、認定経営革新等支援機関(税理士、金融機関など)のサポートを受けながら投資計画を作成し、経済産業局の確認を受けるプロセスが必要となるため、時間に余裕をもって進めましょう。
中古設備も対象となる場合がありますが、一定の条件(例:型式が3世代前以内であることなど、類型により異なる)を満たす必要があります。リース取引の場合は、所有権移転ファイナンス・リース取引は対象となりますが、オペレーティング・リース取引は対象外となる点にも注意が必要です。
3.3 ステップ3 税務申告における即時償却の適用手続き
経営力向上計画の認定を受け、対象設備を取得し事業の用に供したら、最後は税務申告において即時償却の適用手続きを行います。これは、設備を取得し事業の用に供した事業年度の確定申告時に行う必要があります。
具体的な手続きとしては、法人税(個人事業主の場合は所得税)の確定申告書に、即時償却を適用する旨を記載し、関連する明細書を添付します。主に以下の書類が必要となります。
- 確定申告書
- 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却の償却限度額の計算に関する付表(法人税申告書別表十六(七)など)
- 減価償却資産の償却額の計算に関する明細書
- 経営力向上計画の認定書の写し
- 経営力向上計画の申請書の写し
- 上記ステップ2で取得した各種証明書(工業会証明書や経済産業局確認書など)の写し
これらの書類を添付して申告することで、即時償却の適用が認められます。万が一、適用年度の申告で手続きを忘れてしまうと、原則として後から遡って適用することはできません。そのため、申告手続きは慎重に行う必要があります。
税務の専門知識が必要となるため、顧問税理士がいる場合は必ず相談し、適切なアドバイスを受けながら手続きを進めることを強く推奨します。税理士に依頼することで、書類の不備や申告漏れを防ぎ、スムーズな適用が期待できます。また、税務調査に備えて、関連書類一式は整理して法定期間きちんと保管しておくことが重要です。
即時償却を活用する大きなメリット 賢い設備投資のために
即時償却は、設備投資を行った初年度にその取得価額の全額を経費として計上できる魅力的な制度です。この制度を中小企業等経営強化税制のもとで活用することで、企業経営に多大な恩恵をもたらし、賢い設備投資を実現する強力な後押しとなります。具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
4.1 大幅な節税効果によるキャッシュフロー改善の実現
即時償却を適用する最大のメリットの一つは、設備投資初年度における大幅な節税効果です。通常、設備投資にかかった費用は、法定耐用年数に応じて毎年少しずつ減価償却費として経費計上されます。しかし、即時償却では取得価額の100%をその年度の損金として一括で算入できるため、課税対象となる所得を大きく圧縮できます。
例えば、1,000万円の設備を導入し即時償却を適用した場合、その1,000万円全額が経費として認められます。仮に法人税率が30%であれば、単純計算で最大300万円の法人税負担を軽減できる可能性があります。この結果、手元に残る資金(キャッシュフロー)が大幅に増加し、資金繰りの安定化や改善に直結します。特に資金調達が容易ではない中小企業にとって、このキャッシュフロー改善効果は非常に大きく、経営の自由度を高める上で重要な意味を持ちます。
増加した手元資金は、借入金の返済、運転資金の確保、さらなる投資への原資など、様々な形で活用でき、企業の財務体質強化に貢献します。
4.2 設備投資の早期回収と再投資への好循環
即時償却による初年度の大きな節税効果は、実質的な設備投資額を軽減させることにつながります。税負担が減ることで、投資した資金をより短い期間で回収できる可能性が高まります。これは、投資回収期間(ROI)の短縮を意味し、設備投資のリスクを低減させる効果も期待できます。
通常、高額な設備投資は資金回収までに長期間を要し、その間の資金繰りや市場環境の変化が経営リスクとなり得ます。しかし、即時償却を活用すれば、早期に資金を回収し、その資金を新たな成長戦略へと迅速に振り向けることが可能になります。例えば、以下のような好循環を生み出すことができます。
- 回収した資金を元手に、さらなる生産性向上設備を導入する
- 新製品・新サービスの開発投資に充当する
- 優秀な人材の採用や育成に投資する
- 市場の変化に対応するための新規事業立ち上げ資金とする
このように、即時償却は単なる節税に留まらず、企業の成長サイクルを加速させる起爆剤となり得るのです。積極的な設備投資と早期の資金回収、そして次なる成長への再投資という好循環は、持続的な企業発展の鍵となります。
4.3 最新設備導入による生産性向上と競争力強化
即時償却制度は、企業が最新鋭の設備や高機能な機械装置を導入する際の金銭的なハードルを大きく引き下げます。資金的な制約から導入をためらっていた高性能な設備も、即時償却による税負担軽減効果を見込むことで、より積極的に導入検討しやすくなるでしょう。
最新設備の導入は、以下のような多岐にわたるメリットをもたらし、企業の生産性向上と競争力強化に直結します。
項目 | 具体的な効果 |
---|---|
業務効率化 | 作業時間の短縮、自動化による省人化、ヒューマンエラーの削減 |
品質向上 | 製品・サービスの精度向上、不良率の低減、顧客満足度の向上 |
コスト削減 | 原材料費の削減、エネルギー効率の改善による光熱費削減、メンテナンスコストの低減 |
新技術・新サービスの提供 | 市場ニーズに対応した新しい価値の創出、競争優位性の確立 |
労働環境の改善 | 危険作業の機械化、作業負荷の軽減による従業員の負担軽減 |
これらの効果は、企業の収益力向上だけでなく、市場における競争優位性を確立し、変化の激しい現代においても持続的に成長していくための強固な基盤となります。中小企業庁も「中小企業等経営強化法に基づく支援措置」の中で、生産性向上や収益力強化に資する設備投資を後押ししており、即時償却はその有効な手段の一つとして位置づけられています。最新設備への投資は、未来への投資であり、即時償却はその賢い選択をサポートする制度と言えるでしょう。
即時償却を活用する際の注意点と知っておくべきこと
即時償却は大きな節税効果が期待できる魅力的な制度ですが、活用にあたってはいくつかの注意点と事前に理解しておくべき事項があります。これらを把握せずに制度を利用すると、思わぬ影響が出たり、税務調査で指摘を受けたりする可能性も否定できません。賢く制度を活用するために、以下のポイントをしっかりと押さえておきましょう。
5.1 翌年度以降の減価償却費がないことの影響
即時償却を適用すると、設備を取得した初年度にその取得価額の全額を経費として計上できます。これにより、その年度の課税所得を大幅に圧縮し、納税額を抑える効果が期待できます。しかし、これは同時に、翌年度以降、その設備に関する減価償却費が一切発生しないことを意味します。
通常の減価償却であれば、耐用年数に応じて数年間(または十数年間)にわたって分割して費用計上されるものが、初年度に集中するわけです。そのため、以下のような影響を考慮する必要があります。
- 将来の利益計画への影響: 翌年度以降に大きな利益が見込まれる場合、本来であれば計上できたはずの減価償却費がないため、課税所得が相対的に高くなり、納税額が増加する可能性があります。特に、黒字化が見込まれる成長期の企業や、収益が安定している企業にとっては、償却費による継続的な費用計上がなくなることの影響を慎重に検討する必要があります。
- 単年度の節税効果と中長期的な視点: 即時償却は、あくまで課税の繰り延べであり、トータルの納税額が必ずしも減るわけではない(税率が一定の場合)という側面も理解しておく必要があります。初年度の税負担は軽減されますが、その分、将来の税負担が増える可能性があるため、中長期的な資金計画や利益計画と照らし合わせて判断することが重要です。
- 損益計算書の見え方: 翌年度以降、減価償却費が計上されないため、会計上の利益が実態よりも大きく見えることがあります。これは金融機関からの融資審査や取引先からの信用評価において、プラスに働く可能性もありますが、経営実態を正確に把握するためには注意が必要です。
したがって、即時償却の利用は、単年度の節税メリットだけでなく、複数年度にわたる財務戦略の中で最適な選択かどうかを慎重に判断することが求められます。
5.2 資金繰りへの影響と計画的な運用
即時償却は税負担を軽減する効果がありますが、設備投資にかかる初期費用そのものが減額されるわけではありません。高額な設備を導入する場合、当然ながら多額の資金が必要となり、手元資金が一時的に大きく減少する可能性があります。
節税効果によってキャッシュフローは改善されますが、その効果が実際に現れるのは、法人税や所得税の申告・納付時期です。つまり、設備購入代金の支払い時期と、節税効果によるキャッシュインのタイミングにはズレが生じるのが一般的です。このタイムラグを考慮せずに設備投資を行うと、資金繰りが悪化するリスクがあります。
以下の点に注意し、計画的な運用を心がけましょう。
- 資金調達計画の重要性: 自己資金だけで賄うのか、融資を利用するのかなど、設備投資のための資金調達計画を事前にしっかりと策定しておく必要があります。融資を利用する場合は、返済計画と即時償却による税負担軽減のバランスを考慮することが不可欠です。
- 運転資金の確保: 大規模な設備投資によって手元資金が枯渇し、日々の運転資金に支障をきたすことのないよう、十分な余裕を持った資金計画を立てましょう。特に、即時償却を適用した年度は税負担が軽減されても、翌年度以降は減価償却費がないため、その点も踏まえた資金繰りが必要です。
- 投資回収計画との連動: 導入する設備がどれくらいの期間で投資額を回収できるのか、具体的な投資回収計画を立て、資金繰り計画と連動させることが重要です。即時償却はあくまで税務上の措置であり、事業としての採算性を保証するものではありません。
即時償却のメリットを最大限に活かすためには、税務面だけでなく、財務面、特に資金繰りへの影響を十分に検討し、計画的に運用することが肝要です。
5.3 税務調査で指摘されないための準備とポイント
中小企業等経営強化税制を利用した即時償却は、税務上の恩恵が大きい分、税務調査においても適用要件を正しく満たしているかどうかが重点的に確認される項目の一つです。万が一、要件を満たしていないと判断された場合、追徴課税や加算税が発生するリスクがあります。そのため、事前にしっかりと準備を行い、必要な書類を整備・保管しておくことが極めて重要です。
具体的には、以下の書類などを適切に管理し、税務調査の際に速やかに提示できるようにしておく必要があります。
書類の種類 | 主な内容・確認ポイント |
---|---|
経営力向上計画の認定申請書(写)および認定書(写) | 主務大臣(または地方経済産業局長など)から交付されたもの。申請内容と実際に導入した設備が一致しているか、認定期間内に設備を取得し事業の用に供しているかを確認。 |
工業会等による証明書(A類型・B類型の場合) | 対象設備が生産性向上設備(A類型)または収益力強化設備(B類型)の要件を満たすことを証明する書類。設備メーカーを通じて入手することが一般的。 |
経済産業局による確認書(C類型・D類型の場合) | 対象設備がデジタル化設備(C類型)または経営資源集約化設備(D類型)の要件を満たすことを証明する書類。投資計画の認定申請と併せて手続き。 |
対象設備の取得価額を明らかにする書類 | 見積書、契約書、請求書、領収書(または振込記録など支払いを証明するもの)など。購入価格、付随費用(運搬費、据付費など)の内訳がわかるもの。 |
対象設備の仕様や型番がわかる書類 | カタログ、仕様書、パンフレットなど。証明書や計画書に記載された設備と同一であることを確認するため。 |
固定資産台帳 | 取得年月日、取得価額、事業供用年月日、償却方法(即時償却を適用した旨)などが正確に記載されていること。 |
事業供用開始を証明する書類 | 実際に設備が稼働を開始した日を客観的に示すもの(例:稼働記録、検収書、社内稟議書、写真など)。 |
(該当する場合)リース契約書およびリース料見積書 | 所有権移転ファイナンス・リース取引である場合、その契約内容が確認できるもの。 |
これらの書類は、税務申告後も法定保存期間(通常7年間)は必ず保管してください。また、単に書類を揃えるだけでなく、経営力向上計画の内容と実際の設備投資、事業活動が整合していることも重要です。計画倒れになっていないか、計画通りに生産性向上や収益力強化が図られているかといった点も、間接的に確認される可能性があります。
税制の適用要件は複雑な場合があるため、税理士や公認会計士などの専門家と事前に十分相談し、アドバイスを受けながら手続きを進めることを強く推奨します。専門家のサポートを得ることで、書類の不備や解釈の誤りを未然に防ぎ、税務調査のリスクを低減することができます。
5.4 制度の適用期限と改正の可能性について
中小企業等経営強化税制をはじめとする多くの税制優遇措置には、適用期限が設けられています。この経営強化税制についても、現行の適用期限は令和7年(2025年)3月31日までに取得等をして事業の用に供した設備とされています(2024年5月時点の情報)。
税制は、その時々の経済状況や社会情勢、政策目標などに応じて頻繁に見直しや改正が行われるのが常です。過去にも、適用対象となる設備の種類や要件が変更されたり、適用期限が延長されたり、あるいは制度自体が終了して新たな制度に置き換わったりすることがありました。
したがって、即時償却の活用を検討する際には、以下の点に留意が必要です。
- 最新情報の確認: 設備投資の計画段階から実行、税務申告に至るまで、常に最新の制度内容と適用期限を確認することが不可欠です。信頼できる情報源としては、中小企業庁のウェブサイトや、税理士会、商工会議所などが発信する情報、そして顧問税理士からのアドバイスが挙げられます。
- 計画的な設備投資: 適用期限間際での設備投資計画は、万が一期限が延長されなかった場合や、要件変更があった場合に適用を受けられないリスクが伴います。可能な限り、余裕を持ったスケジュールで計画を進めることが賢明です。特に、経営力向上計画の認定申請や工業会の証明書取得には一定の時間がかかるため、これらの手続き期間も考慮に入れる必要があります。
- 改正内容への対応: もし制度が改正された場合、自社の設備投資が新たな要件を満たすかどうかを速やかに確認し、対応する必要があります。場合によっては、計画の見直しを迫られることもあり得ます。
制度の動向を注視し、不確実性を考慮に入れた上で、柔軟に対応できるような準備をしておくことが、税制優遇を確実に活用するための重要なポイントとなります。
即時償却以外にもある?設備投資に使える税制優遇
即時償却は非常に魅力的な制度ですが、設備投資を支援する税制優遇は他にも存在します。自社の状況や投資計画に合わせて最適な制度を選択することで、より効果的な節税と経営力強化が期待できます。ここでは、中小企業等経営強化税制による即時償却以外の代表的な設備投資関連の税制優遇をご紹介します。
6.1 先端設備等導入計画に基づく支援措置
「先端設備等導入計画」は、中小企業者が設備投資を通じて労働生産性の向上を図るための計画です。この計画が市区町村から認定されると、税制支援や金融支援などのサポートを受けることができます。根拠法は中小企業等経営強化法です。
対象となるのは、資本金額1億円以下の法人、資本金・出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主などの中小企業者等です。対象設備は、生産性向上に資する指標が旧モデル比で年平均1%以上向上する機械装置、測定工具及び検査工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェアなどが該当します。
主な支援内容は以下の通りです。
- 固定資産税の特例措置: 認定計画に基づき取得した一定の設備について、固定資産税が3年間、市町村が定めた割合(ゼロから2分の1の間)で軽減されます。
- 金融支援: 計画認定を受けた事業者は、民間金融機関から融資を受ける際に信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられる場合があります。
手続きとしては、まず市区町村が策定した導入促進基本計画に適合する先端設備等導入計画を作成し、経営革新等支援機関の事前確認を受けた上で市区町村に申請し、認定を受ける必要があります。その後、認定計画に基づいて設備を取得します。
この制度は即時償却とは異なり、主に固定資産税の軽減が中心となる点が特徴です。ただし、自治体によっては独自の補助金制度と連携している場合もありますので、所在地の市区町村の情報を確認することが重要です。
詳細は、中小企業庁の「先端設備等導入制度による支援」のページをご確認ください。
6.2 その他の特定設備投資に関する税制
先端設備等導入計画に基づく支援措置以外にも、特定の目的や種類の設備投資に対して税制優遇が設けられています。以下に代表的なものをいくつかご紹介します。
6.2.1 中小企業投資促進税制
中小企業投資促進税制は、中小企業者等が特定の機械装置やソフトウェアなどを取得した場合に、特別償却または税額控除のいずれかの適用を選択できる制度です。生産性向上や事業基盤の強化を後押しすることを目的としています。
対象者は、青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合等、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主など)です。対象となる設備は、機械装置(1台160万円以上)、測定工具及び検査工具(1台120万円以上、または1台30万円以上かつ複数合計120万円以上)、ソフトウェア(70万円以上、または複数合計70万円以上)など、一定の条件を満たすものです。
優遇措置として、取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下の法人は対象外、資本金3,000万円以下の法人や個人事業主等が対象)のいずれかを選択適用できます。ただし、税額控除はその事業年度の法人税額または所得税額の20%が上限となります。
この制度を活用することで、設備投資初年度の税負担を軽減し、キャッシュフローの改善を図ることができます。
詳細は、中小企業庁の「中小企業投資促進税制」のページをご確認ください。
6.2.2 研究開発税制
研究開発税制は、企業が製品開発や技術改良のために支出した試験研究費の一部を法人税額(または所得税額)から控除できる制度です。直接的な設備投資への優遇とは異なりますが、新たな技術や製品を開発するために必要な設備投資も、その研究開発活動の一環として関連してくる場合があります。
対象となるのは、青色申告法人及び青色申告を行う個人事業主です。試験研究費の総額に対して一定割合を税額控除できる「総額型」や、オープンイノベーション型の連携にかかる費用を対象とする「オープンイノベーション型」など、いくつかの種類があります。
この税制は、設備投資そのものではなく、あくまで研究開発活動にかかる費用に対する税額控除が中心ですが、研究開発目的で購入した機械装置や測定機器なども試験研究費に含まれる場合があります。イノベーション創出を目指す企業にとっては重要な支援策です。
詳細は、経済産業省の「研究開発税制」のページをご確認ください。
6.2.3 地域未来投資促進税制
地域未来投資促進税制は、地域の特性を生かして高い付加価値を創出し、地域経済への波及効果(取引額や雇用、売上の増加など)をもたらす「地域経済牽引事業」を行う事業者を支援する制度です。都道府県知事から地域経済牽引事業計画の承認を受けた事業者が、その計画に基づいて行う設備投資に対して税制優遇が受けられます。
対象者は、地域経済牽引事業の承認を受けた青色申告法人または個人事業主です。対象となる設備は、承認された地域経済牽引事業の用に供する建物、附属設備、構築物、機械装置、器具備品です。
優遇措置として、先進性を有する事業に必要な設備投資について、取得価額の最大50%の特別償却または最大5%の税額控除を選択適用できます。ただし、税額控除はその事業年度の法人税額または所得税額の20%が上限です。地域経済の活性化に貢献する事業展開を考えている場合に活用を検討できる制度です。
詳細は、経済産業省の「地域未来投資促進税制」のページをご確認ください。
6.2.4 カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、企業による大胆な投資を後押しするための制度です。大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備の導入や、生産プロセスそのものの脱炭素化に資する設備の導入に対して、税制優遇が講じられます。
対象者は、青色申告書を提出する法人です。対象となる投資は、事業適応計画(仮称)の認定を受けた事業者が行う、①大きな脱炭素化効果を持つ製品(例:リチウムイオン蓄電池、燃料電池、半導体、洋上風力発電の重要部品等)の生産設備の導入、②生産プロセス等の抜本的な脱炭素化のための設備(例:工業炉の電化・水素化、化石燃料を使わない原料転換等)の導入です。
優遇措置として、計画の認定を受けた事業者が行う対象設備への投資について、最大10%の税額控除または50%の特別償却が適用されます。特に大きな温室効果ガス削減効果が見込まれる投資(例えば、3年間でエネルギー利用効率が30%以上向上、またはCO2排出量が30%以上削減など)が対象となります。
詳細は、経済産業省の「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」のページをご確認ください。
これらの制度は、それぞれ対象者、対象設備、要件、優遇内容が異なります。自社の設備投資計画や経営戦略に照らし合わせ、専門家にも相談しながら、最適な制度の活用を検討しましょう。
即時償却に関するよくある質問 FAQ
即時償却の活用を検討する際に、多くの方が疑問に思われる点をQ&A形式でまとめました。制度の理解を深め、賢い設備投資を実現するためにお役立てください。
7.1 即時償却の申請から適用までどれくらい時間がかかりますか
即時償却の適用を受けるまでには、いくつかのステップがあり、それぞれに要する期間が異なります。一概には言えませんが、経営力向上計画の策定準備から税務申告まで、スムーズに進んだ場合でも数ヶ月程度を見込むのが一般的です。
主なステップと期間の目安は以下の通りです。
ステップ | 内容 | 期間の目安 |
---|---|---|
ステップ1:計画策定と申請準備 | 経営力向上計画の策定、必要書類の準備 | 数週間~1ヶ月程度(企業の状況や準備体制による) |
ステップ2:経営力向上計画の申請と認定 | 主務大臣(事業分野ごとの担当省庁)へ経営力向上計画を申請し、認定を受ける | 申請から認定まで通常30日~45日程度(書類に不備がない場合)。ただし、申請が集中する時期などはさらに時間を要する場合もあります。 |
ステップ3:対象設備の取得と事業への供用 | 計画認定後、対象となる設備を取得し、事業の用に供する | 設備の納期や設置工事の期間による |
ステップ4:税務申告 | 設備を取得し事業の用に供した事業年度の確定申告時に、即時償却の適用を受けるための手続きを行う | 事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内 |
特に経営力向上計画の策定と認定には時間がかかるため、設備投資の検討段階から早めに準備を開始することが重要です。 また、申請書類に不備があると差し戻しとなり、さらに時間がかかる可能性があります。不明な点があれば、税理士や中小企業診断士、認定経営革新等支援機関などの専門家、または管轄の省庁に事前に相談することをおすすめします。中小企業庁のウェブサイトでも、手続きに関する情報が提供されています。
7.2 赤字決算でも即時償却は利用する意味がありますか
赤字決算の事業年度においては、即時償却を利用してもその年度の法人税額が直接的に軽減される効果はありません。 なぜなら、即時償却は課税所得から設備取得価額全額を損金算入することで所得を圧縮し、結果として法人税額を減少させる制度だからです。既に課税所得がマイナス(赤字)の場合、そこからさらに損金を増やしても、その年度の納税額がゼロであることに変わりはありません。
しかし、赤字決算であっても即時償却を利用する意味が全くないわけではありません。考慮すべき点は以下の通りです。
- 繰越欠損金の活用: 青色申告法人であれば、赤字(欠損金)は翌事業年度以降最長10年間繰り越すことができます。即時償却を利用してその年度の赤字額を増やしておくことで、将来黒字化した際に相殺できる欠損金の額が大きくなり、将来の節税につながる可能性があります。
- 将来の減価償却費の不存在: 即時償却を行うと、その設備に関する減価償却費は翌年度以降発生しません。もし即時償却を利用しなかった場合、将来黒字化した年度において減価償却費が計上され、課税所得を圧縮する効果があります。どちらが有利かは、将来の収益予測や資金繰りの状況などを総合的に勘案して判断する必要があります。
- 資金繰りへの影響: 即時償却自体はキャッシュアウトを伴うものではありませんが、設備投資そのものには資金が必要です。赤字決算で資金繰りが厳しい状況であれば、無理な設備投資は避けるべきです。
結論として、赤字決算の場合でも、将来の黒字化を見据えて繰越欠損金を有効活用したい場合や、特定の経営戦略がある場合には、即時償却の利用を検討する価値はあります。 ただし、短期的な節税効果はないため、慎重な判断が求められます。税理士などの専門家と相談し、中長期的な視点でメリット・デメリットを比較検討することが重要です。
7.3 AIのGPUサーバーでも即時償却の対象になりますか
AI(人工知能)の開発や運用に用いられるGPU(Graphics Processing Unit)サーバーも、中小企業等経営強化税制における即時償却の対象となる可能性があります。 ただし、そのためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
GPUサーバーが対象設備として認められるためには、主に以下の類型に該当し、それぞれの要件を満たす必要があります。
- 生産性向上設備(A類型):
- 一定期間内(10年以内)に販売が開始されたモデルであること。
- 生産性が旧モデル比で年平均1%以上向上する設備であること(生産効率、エネルギー効率、精度など)。
- この証明は、設備を製造した工業会等から「生産性向上設備等に係る仕様等証明書」を取得することで行います。
- GPUサーバーが製品開発の効率化や生産プロセスの自動化・高度化に直接寄与する場合などが考えられます。
- デジタル化設備(C類型):
- 事業プロセスの遠隔操作、可視化、自動化等を可能にすることにより、生産性を向上させる設備であること。
- 経済産業大臣の確認を受けた情報処理支援機関(スマートSMEサポーター)や認定経営革新等支援機関から、経営力向上計画とともに「情報処理支援機関等確認書」の発行を受ける必要がある場合があります。
- GPUサーバーをAIによるデータ分析基盤として導入し、新たなサービス開発や業務プロセスの抜本的な効率化を図る場合などが該当し得ます。
これらの類型に該当するかどうかは、GPUサーバーの具体的な用途、導入目的、性能、そして関連するソフトウェアとの組み合わせなどによって総合的に判断されます。また、取得価額の要件(例えば、器具備品であれば1台30万円以上、ソフトウェアであれば70万円以上など、類型や設備の種類によって異なります)も満たす必要があります。
AI関連技術は進化が速く、税制の解釈や適用事例も変化する可能性があるため、最新の情報を確認することが非常に重要です。 具体的なケースについては、税理士や中小企業診断士、または経済産業省や中小企業庁の担当窓口に相談し、事前に確認することをおすすめします。
参考情報として、中小企業庁のウェブサイトで公開されている「経営強化税制」に関する資料やQ&Aをご確認ください。
まとめ
即時償却は、中小企業等経営強化税制を活用することで、設備投資額の全額を取得初年度に経費計上できる魅力的な制度です。これにより、大幅な節税効果とキャッシュフローの改善が期待でき、設備投資の早期回収や企業の競争力強化に直結します。ただし、翌年度以降の減価償却費がなくなる点などの注意点を理解し、計画的に活用することが重要です。賢い設備投資と経営力強化のために、本制度の積極的な活用を検討しましょう。
弊社ではGPUサーバーを活用した節税をご案内しております。税務面でのご相談がございましたら、ぜひ【資料請求】よりお気軽にお問い合わせください。
投稿者

ゼロフィールド
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