中小企業経営強化税制は、設備投資を行う際に「即時償却」または「税額控除」のいずれかの優遇措置を受けられる、中小企業にとって非常に有利な制度です。しかし、「自社が対象になるのか?」「即時償却と税額控除はどちらを選ぶべき?」「経営力向上計画の申請手続きが複雑そう」といった疑問や不安をお持ちの経営者や経理担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そのような疑問をすべて解消します。制度の概要から対象となる企業の条件、A類型~D類型といった対象設備の種類、具体的な申請手続きの流れ、活用事例までを網羅的に解説。特に、多くの方が悩む即時償却と税額控除の選択については、企業の状況に応じたシミュレーションを交えながら徹底比較します。
この記事を最後まで読めば、あなたの会社に最適な形で制度を活用し、賢く節税しながら事業を成長させる方法が明確にわかります。
中小企業経営強化税制の概要
中小企業経営強化税制とは、中小企業の生産性向上や経営基盤の強化を目的とした設備投資を支援するための税制優遇制度です。急速なデジタル化(DX)や人手不足といった経営課題に直面する中小企業にとって、新たな設備投資は競争力を維持・向上させる上で不可欠です。しかし、高額な初期費用が導入の障壁となるケースも少なくありません。
この制度を活用することで、設備投資にかかる税負担を大幅に軽減し、キャッシュフローを改善しながら積極的な投資を行うことが可能になります。まずは、この強力な支援制度の基本的な仕組みについて理解を深めていきましょう。
1.1 中小企業の設備投資を後押しする税制優遇制度
中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法に基づき、国が認定した「経営力向上計画」に沿って行われる設備投資に対して、特別な税制措置を認める制度です。この計画は、企業が自社の課題を分析し、生産性向上や収益力強化のために具体的な目標と設備投資計画を策定するものです。
国(主務大臣)からこの計画の認定を受けることで、対象となる新品の設備を取得した場合に、法人税(または所得税)の優遇措置を受けられます。単なる節税だけでなく、自社の経営課題と向き合い、計画的な成長戦略を描くきっかけとなる点も、この制度の大きな意義と言えるでしょう。制度の詳細は中小企業庁のウェブサイトでも確認できます。
1.2 即時償却と税額控除のどちらかを選択可能
本制度の最大の特長は、企業の状況に応じて「即時償却」または「税額控除」という2つの優遇措置から有利な方を選択できる点です。どちらを選ぶかによって節税効果の現れ方が異なるため、自社の利益状況や経営戦略に合わせた慎重な判断が求められます。
- 即時償却:設備取得価額の全額を、取得した事業年度の経費(損金)として一括で計上できる制度です。通常、設備は耐用年数に応じて数年にわたり減価償却を行いますが、即時償却では初年度にすべての費用を計上できるため、その年度の課税所得を大幅に圧縮できます。
- 税額控除:設備取得価額の7%または10%を、その事業年度に納めるべき法人税額から直接差し引くことができる制度です。課税所得を減らすのではなく、算出された税額そのものを直接減額するため、確実な節税効果があります。
それぞれの特徴を以下の表にまとめました。
| 措置 | 概要 | メリット |
|---|---|---|
| 即時償却 | 取得価額の100%を初年度に損金算入 | 初年度の税負担を大幅に軽減し、キャッシュフローを改善できる(利益の繰り延べ効果) |
| 税額控除 | 取得価額の7%または10%を法人税額から直接控除 | 支払う税金そのものを減額できるため、トータルの節税額が大きくなる場合がある |
※税額控除の控除率は、資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%、資本金3,000万円以下の法人や個人事業主は10%となります。なお、税額控除額はその事業年度の法人税額の20%が上限です。
1.3 いつまで利用できる?適用期間について
中小企業経営強化税制には適用期限が定められています。この日までに、対象となる設備を取得し、かつ事業の用に供する(実際に業務で使用を開始する)必要があります。
注意点として、税制優遇を受けるためには、原則として設備を取得する前に「経営力向上計画」の認定を受けなければなりません。計画の申請から認定までには1ヶ月〜2ヶ月程度の期間を要する場合があるため、期限間近での設備導入を検討している場合は、逆算して可及的速やかに手続きを開始することが重要です。
制度を利用するための適用要件
中小企業経営強化税制は、すべての設備投資に適用されるわけではありません。この税制優遇を受けるためには、「誰が(対象となる企業)」、「何を(対象となる設備)」導入するのかについて、定められた要件をすべて満たす必要があります。また、大前提として、設備投資に関する「経営力向上計画」を策定し、国の認定を受けることが不可欠です。
ここでは、制度利用の鍵となる「企業の条件」と「設備の種類」について、具体的な要件を詳しく見ていきましょう。
2.1 対象となる中小企業の条件
本税制の対象となるのは「中小企業者等」です。具体的には、青色申告書を提出する法人または個人事業主で、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。業種によって資本金や従業員数の基準が異なるため、自社が該当するかを確認しましょう。
| 業種分類 | 資本金または出資金の額 | 常時使用する従業員の数 |
|---|---|---|
| 製造業、建設業、運輸業、その他の業種(下記以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
また、資本金1億円以下の法人であっても、以下のような「みなし大企業」に該当する場合は対象外となるため注意が必要です。
- 同一の大規模法人(資本金1億円超の法人等)に発行済株式総数の2分の1以上を所有されている法人
- 2つ以上の大規模法人に発行済株式総数の3分の2以上を所有されている法人
自社が対象となるかどうかの詳細な条件については、中小企業庁のウェブサイトで確認することをおすすめします。中小企業庁:経営強化法による支援
2.2 対象となる設備の種類と4つの類型
税制の対象となる設備は、企業の生産性向上や収益力強化に直接的に貢献するものである必要があり、「A類型」から「D類型」までの4つのカテゴリーに分類されています。どの類型に該当するかによって、満たすべき要件や申請時に必要な書類が異なります。
まずは、自社が導入を検討している設備がどの類型に当てはまるかを確認しましょう。
| 類型 | 目的 | 対象設備(いずれも新品であること) | 最低取得価額 |
|---|---|---|---|
| A類型:生産性向上設備 | 旧モデル比で生産性が年平均1%以上向上する設備 | 機械装置、測定工具・検査工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェア | 機械装置:160万円以上 測定工具・検査工具:30万円以上 器具備品:30万円以上 建物附属設備:60万円以上 ソフトウェア:70万円以上 |
| B類型:収益力強化設備 | 投資利益率が年平均5%以上となることが見込まれる設備 | ||
| C類型:デジタル化設備 | 遠隔操作・可視化・自動化のいずれかを可能にする設備 | ||
| D類型:経営資源集約化設備 | M&A後に、経営資源の集約化に貢献する設備 |
以下で、各類型の詳細と手続きの違いについて解説します。
2.2.1 A類型:生産性向上設備
A類型は、設備の性能が一定水準以上であることを客観的に証明できる設備が対象です。具体的には、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 生産性向上要件:一定期間内(10年以内)に販売が開始されたモデルであり、旧モデルと比較して生産性が年平均1%以上向上していること。
- 価格要件:上記の表に記載された最低取得価額以上であること。
この類型で申請する場合、設備メーカーなどを通じて、その設備が要件を満たしていることを証明する「工業会等の証明書」を取得し、経営力向上計画の申請書に添付する必要があります。
2.2.2 B類型:収益力強化設備
B類型は、企業の収益力を高めるための投資計画に基づき導入される設備が対象です。A類型のように設備自体の性能を問うのではなく、その設備投資によって企業がどれだけ儲かるか、という視点で判断されます。
この類型で申請するためには、公認会計士や税理士などの「認定経営革新等支援機関」に事前に相談し、その設備投資によって投資利益率が年平均5%以上になることの確認を受け、「投資計画に関する確認書」を発行してもらう必要があります。
2.2.3 C類型:デジタル化設備
C類型は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための設備が対象です。具体的には、事業プロセスの「遠隔操作」「可視化」「自動化」のいずれかに貢献する設備が該当します。
例えば、工場の稼働状況を遠隔でモニタリングするシステムや、AIを活用したデータ分析ソフトウェア、RPA(Robotic Process Automation)ツールなどが考えられます。この類型もB類型と同様に、「認定経営革新等支援機関」による「投資計画に関する確認書」の取得が必要です。また、導入する設備がサイバーセキュリティ対策の要件を満たしていることも求められます。
2.2.4 D類型:経営資源集約化設備
D類型は、M&A(事業承継等)を契機として、経営資源の集約化(効率化)に貢献する設備が対象となる、少し特殊な類型です。例えば、合併後に重複する業務を効率化するための新しい生産管理システムや、統合後のシナジー効果を最大化するための設備などが該当します。
この類型を利用するには、M&Aの実施が前提となり、B類型やC類型と同様に「認定経営革新等支援機関」による「投資計画に関する確認書」が必要となります。
【徹底比較】即時償却と税額控除はどちらを選ぶべき?
中小企業経営強化税制の最大の特長は、設備投資に対して「即時償却」または「税額控除」のいずれか有利な方を選択できる点です。どちらを選ぶかによって、キャッシュフローや複数年度にわたるトータルの節税額に大きな違いが生まれます。ここでは、それぞれのメリットをシミュレーションを交えながら詳しく解説し、企業の状況に応じた最適な選択肢を提案します。
3.1 即時償却のメリットと節税シミュレーション
即時償却とは、通常、法定耐用年数にわたって分割して費用計上(減価償却)する設備取得費用を、取得した事業年度に全額を損金として算入できる制度です。これにより、初年度の課税所得を大幅に圧縮し、納税額を大きく減らすことができます。
最大のメリットは、設備投資を行った年度の税負担を軽減し、手元のキャッシュフローを改善できる点です。特に、大きな利益が見込まれる年度に高額な設備投資を行うことで、その効果を最大限に引き出すことが可能です。
ただし、即時償却はあくまで「課税の繰り延べ」である点に注意が必要です。初年度に全額を費用計上するため、翌年度以降はその設備に関する減価償却費が発生しません。そのため、長期的に見れば納税総額は通常の減価償却と変わらないケースがほとんどです。しかし、納税を将来に先送りすることで得られる資金繰りの改善効果は、中小企業にとって非常に大きなメリットと言えるでしょう。
3.1.1 【節税シミュレーション】2,000万円の設備を導入した場合
具体的な節税効果をシミュレーションで見てみましょう。
- 設備投資額:2,000万円
- 法人税等の実効税率:約30%と仮定
この場合、即時償却を適用することで、初年度に2,000万円全額を損金算入できます。その結果、得られる節税効果は以下の通りです。
節税効果:2,000万円 × 30% = 600万円
つまり、本来であれば2,000万円の支出となるところ、実質的な負担額を1,400万円に抑えて最新設備を導入できる計算になります。これにより確保できた600万円のキャッシュは、次の事業投資や人材採用、借入金の返済など、様々な形で有効活用できます。
3.2 税額控除のメリットと控除率
税額控除は、算出した法人税額から、設備取得価額の一定割合を直接差し引くことができる制度です。損金算入によって課税対象の所得を減らす即時償却とは異なり、税額そのものを減らすため、より直接的な節税効果があります。
この制度の大きなメリットは、複数年にわたる減価償却と併用できるため、トータルの節税額が大きくなる点です。初年度に税額控除を受けつつ、翌年度以降も通常の減価償却費を計上できるため、長期的に安定した節税効果が期待できます。
控除率は、企業の資本金の額によって異なります。
| 企業区分 | 控除率 |
|---|---|
| 資本金3,000万円以下の法人、個人事業主 | 取得価額の10% |
| 資本金3,000万円超1億円以下の法人 | 取得価額の7% |
なお、税額控除額には上限があり、その事業年度の法人税額(または所得税額)の20%が限度となります。もし控除額が上限を超えた場合は、翌事業年度に1年間繰り越すことが可能です。詳細な要件については、中小企業庁の公式サイトや税理士などの専門家にご確認ください。
3.3 企業の状況別おすすめ選択ガイド
では、自社にとってはどちらの制度がより有利なのでしょうか。以下の比較表と企業の状況別のガイドを参考に、最適な選択を検討してください。
| 項目 | 即時償却 | 税額控除 |
|---|---|---|
| 仕組み | 取得価額の全額を初年度に損金算入 | 取得価額の7%または10%を法人税額から直接控除 |
| 初年度の節税効果 | 非常に大きい(課税の繰り延べ) | 大きい(税額そのものを減らす) |
| 複数年度での効果 | 2年目以降の減価償却費はゼロ | 通常の減価償却も可能で、長期的な節税効果 |
| キャッシュフローへの影響 | 初年度の納税額を大幅に圧縮でき、改善効果が高い | 納税額を直接減らせるため、改善効果がある |
3.3.1 こんな企業におすすめ!状況別選択ガイド
- 【即時償却がおすすめ】当期に大きな利益が出ている・出る見込みの企業 予想以上の業績で多額の納税が見込まれる場合、即時償却を適用して課税所得を大きく圧縮するのが有効です。目先の税負担を大幅に軽減し、キャッシュフローを最大化したい場合に最適な選択肢です。
- 【税額控除がおすすめ】継続的に安定した利益が見込まれる企業 今後も安定して黒字経営が続く見込みであれば、税額控除が有利になる可能性があります。初年度に税額控除を受け、さらに次年度以降も減価償却費を計上することで、複数年度にわたって着実に税負担を軽減できます。結果として、即時償却よりも支払う税金の総額が少なくなることがあります。
- 【税額控除がおすすめ】赤字、または利益が少ない企業 赤字の事業年度では、課税所得がないため即時償却のメリットは享受できません。一方、税額控除は繰越が可能なため、翌年度に利益が出た際に適用できる可能性があります。ただし、繰越の適用には条件があるため、顧問税理士などの専門家と相談の上で判断することが重要です。
どちらの制度を選択するかは、単年度の損益だけでなく、中長期的な事業計画や資金繰りの状況を総合的に勘案して決定する必要があります。判断に迷う場合は、必ず税理士や会計士に相談し、自社にとって最もメリットの大きい方法を選択しましょう。
中小企業経営強化税制の申請手続きと流れ
中小企業経営強化税制を活用するためには、事前の計画策定と認定、そして適切な税務申告が必要です。手続きは一見複雑に思えるかもしれませんが、一つひとつのステップを順番に踏んでいけば、確実に税制優遇を受けることができます。ここでは、制度利用までの全体像を4つのステップに分けて、具体的に解説します。
4.1 ステップ1:経営力向上計画の策定と申請
本税制を利用するための最初の、そして最も重要なステップが「経営力向上計画」の策定と申請です。これは、単に設備を導入するだけでなく、その設備投資によって自社の経営力をどのように向上させるかを具体的に示す計画書です。この計画が国の認定を受けなければ、税制優遇は適用されません。
計画書には、主に以下の項目を盛り込む必要があります。
- 企業の概要:事業内容や従業員数などの基本情報
- 現状認識:自社の財務状況、製品・サービスの強みや弱み、市場の動向などの分析
- 経営力向上の目標:労働生産性や売上高など、具体的な数値目標(例:「労働生産性を3年で5%向上させる」など)
- 経営力向上の内容:目標達成のために導入する設備の詳細と、それを活用した具体的な取り組み内容
- 資金計画:設備投資に必要な資金の調達方法
計画の策定にあたっては、自社だけで進めるのが難しい場合、税理士や中小企業診断士、地域の商工会議所といった「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」に相談するのがおすすめです。専門家の知見を借りることで、より実効性の高い計画を作成できます。
計画書が完成したら、事業分野に応じた主務大臣(窓口は各地方経済産業局など)宛に申請します。申請は、原則として「経営力向上計画申請プラットフォーム」からの電子申請となります。
【重要ポイント】
設備の取得は、原則として経営力向上計画の認定を受けた後に行う必要があります。認定前に設備を取得してしまうと、税制の対象外となる可能性があるため、必ず計画の申請・認定を先に行ってください。
4.2 ステップ2:主務大臣からの認定
申請された経営力向上計画は、国の担当部署によって審査されます。計画内容が制度の趣旨に合致し、実現可能性があると判断されれば、主務大臣による認定が下ります。
申請から認定までの標準的な処理期間は、申請内容に不備がない場合で約30日です(事業分野によっては45日程度かかる場合もあります)。計画に修正が必要な場合はさらに時間がかかるため、設備導入のスケジュールから逆算して、余裕を持った申請を心がけましょう。
無事に認定されると、「経営力向上計画に係る認定通知書」が交付されます。この認定通知書は、後の設備取得や税務申告の際に必要となる重要な書類ですので、大切に保管してください。
4.3 ステップ3:設備の取得と事業への利用開始
経営力向上計画の認定を受けたら、計画書に記載した設備を取得します。この際、対象となる設備の種類(A類型〜D類型)に応じて、以下のいずれかの証明書も併せて取得する必要があります。
| 類型 | 対象設備 | 必要な証明書類 | 発行元 |
|---|---|---|---|
| A類型 | 生産性向上設備 | 工業会等による証明書 | 設備を生産したメーカーが加盟する工業会など |
| B類型 | 収益力強化設備 | 認定経営革新等支援機関による確認書 | 投資計画について助言を受けた税理士や金融機関など |
| C類型 | デジタル化設備 | 認定経営革新等支援機関による確認書 | 投資計画について助言を受けた税理士やITコーディネーターなど |
| D類型 | 経営資源集約化設備 | 認定経営革新等支援機関による確認書 | M&Aの仲介業者や税理士など |
A類型の「証明書」は、設備のメーカーを通じて工業会に発行を依頼します。B・C・D類型の「確認書」は、計画策定を支援してくれた認定支援機関などに発行を依頼します。これらの証明書類も税務申告で必要となります。
設備を取得したら、その事業年度内に自社の事業へ利用を開始(事業供用)してください。倉庫に保管しているだけでは税制優遇の対象とはなりません。
4.4 ステップ4:税務申告と必要書類
最終ステップは、税務申告です。設備を取得し、事業の用に供した事業年度の確定申告の際に、中小企業経営強化税制の適用を受けるための手続きを行います。
申告時には、通常の法人税(または所得税)の確定申告書に加えて、以下の書類を添付する必要があります。
- 税制の適用を受けるための明細が記載された法人税申告書別表等
- 経営力向上計画の申請書(写し)
- 経営力向上計画の認定通知書(写し)
- ステップ3で取得した「工業会等の証明書」または「認定支援機関の確認書」(写し)
- (リースの場合)リース契約書(写し)、リース料の支払額が確認できる書類など
即時償却か税額控除のどちらを選択するかは、この税務申告のタイミングで最終決定します。企業の利益状況や将来のキャッシュフロー計画などを考慮し、顧問税理士などの専門家と相談の上、最適な選択を行いましょう。書類に不備があると税務署からの指摘を受け、優遇措置が受けられなくなる可能性もあるため、慎重に準備を進めることが肝心です。
中小企業経営強化税制の活用事例
中小企業経営強化税制は、幅広い業種と設備投資で活用できる強力な制度です。しかし、「自社の場合はどう活用できるのか?」と具体的なイメージが湧きにくい方も多いのではないでしょうか。本章では、業種別に3つの具体的な活用事例をご紹介し、どのような課題を解決し、どのような成果を得られたのかを詳しく解説します。
5.1 【IT企業】高性能GPUサーバー導入でAI開発を加速
急速に進化するAI技術に対応するため、多くのIT企業が計算資源の確保に課題を抱えています。特に、ディープラーニングモデルの開発やビッグデータ解析には、高性能なGPUサーバーが不可欠です。この事例では、AI開発を手掛ける中小IT企業が本税制を活用し、競争力を大幅に向上させたケースを見ていきましょう。
この企業では、クラウドサービスのGPUを利用していましたが、開発の本格化に伴いコストが急増し、収益を圧迫していました。また、クライアントから預かる機密データを扱う上で、セキュリティ面の強化も急務でした。そこで、経営力向上計画(C類型:デジタル化設備)の認定を受け、オンプレミス環境に高性能GPUサーバーを導入することを決定しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 抱えていた課題 | ・AIモデルの学習に時間がかかり、開発スピードが遅い ・クラウドGPUの利用料が高額で、コストを圧迫 ・機密データのセキュリティに懸念があった |
| 導入した設備 | 高性能GPUサーバー(NVIDIA H100 Tensor Core GPU搭載) 取得価額:2,700万円 |
| 適用した類型 | C類型:デジタル化設備 |
| 選択した税制優遇 | 即時償却 |
| 得られた税制メリット | 導入初年度に2,700万円を全額損金算入し、法人税約810万円(税率30%と仮定)の負担を軽減。これにより創出されたキャッシュを新たな人材採用や研究開発に再投資。 |
| 導入後の成果 | AIモデルの学習時間が従来の1/5に短縮され、開発サイクルが飛躍的に高速化。オンプレミス環境でセキュアにデータを扱えるようになり、大規模な受託開発案件の獲得に成功。クラウドコストも大幅に削減できた。 |
5.2 【製造業】最新の工作機械導入で生産性を向上
日本のものづくりを支える製造業では、生産性の向上と品質の安定化が常に求められます。特に、熟練技術者の高齢化や人手不足が深刻化する中で、設備の近代化は避けて通れない課題です。ここでは、金属部品加工を行う製造業が、本税制を活用して生産体制を刷新した事例を紹介します。
この工場では、旧式の汎用旋盤やフライス盤が稼働しており、加工精度にばらつきが生じ、不良品率の高さが長年の悩みでした。また、複雑な形状の部品は外注に頼らざるを得ず、コストとリードタイムの増大を招いていました。この状況を打破するため、生産性向上設備(A類型)として最新の5軸マシニングセンタと産業用ロボットの導入を決断しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 抱えていた課題 | ・設備の老朽化による加工精度の低下と高い不良品率 ・熟練工への依存度が高く、技術承継が困難 ・複雑な加工を外注しており、コストと納期が課題 |
| 導入した設備 | 5軸制御マシニングセンタ、多関節産業用ロボット 取得価額:4,000万円 |
| 適用した類型 | A類型:生産性向上設備 |
| 選択した税制優遇 | 税額控除(10%) |
| 得られた税制メリット | 安定した利益が見込めるため、税額控除を選択。法人税額から直接400万円(4,000万円×10%)を控除し、複数年にわたる税負担を平準化しながら軽減。 |
| 導入後の成果 | 不良品率が8%から1%未満へと劇的に改善。これまで外注していた部品の内製化が可能になり、コストを20%削減、納期を1週間短縮。ロボットによる夜間無人運転で、生産性が約30%向上した。 |
5.3 【小売業】POSレジシステム刷新で業務効率化
消費者ニーズの多様化やキャッシュレス決済の普及により、小売業の現場では迅速かつ柔軟な対応が求められています。しかし、多くの店舗では旧態依然としたシステムが業務の足かせとなっているのが現状です。ここでは、地域密着型のスーパーマーケットが、デジタル化設備(C類型)の導入で業務改革を実現した事例を見ていきましょう。
この店舗では、旧式のレジスターを使用していたため、日々の売上集計や在庫管理を手作業で行っており、膨大な時間と労力がかかっていました。また、顧客の購買データを分析する術がなく、勘と経験に頼った仕入れを行っていました。そこで、クラウド連携型の最新POSレジシステムと自動釣銭機を全台導入し、店舗運営のDX(デジタルトランスフォーメーション)を図りました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 抱えていた課題 | ・レジ締めや棚卸などの手作業に時間がかかり、人件費が増大 ・在庫管理が不正確で、欠品や過剰在庫が発生 ・データに基づいた販売戦略が立てられない |
| 導入した設備 | クラウド連携型POSレジシステム、自動釣銭機 取得価額:800万円 |
| 適用した類型 | C類型:デジタル化設備 |
| 選択した税制優遇 | 即時償却 |
| 得られた税制メリット | 設備投資額が比較的少額であったため、即時償却を選択。導入費用の800万円を初年度に一括で経費計上し、キャッシュアウトを抑制しながら最新システムへの移行を実現。 |
| 導入後の成果 | レジ締め作業の時間が1台あたり30分から5分に短縮。リアルタイムで在庫状況を把握できるようになったことで、食品ロスが15%削減。POSデータ分析により売れ筋商品を特定し、客単価が10%向上した。 |
制度利用に関するよくある質問(FAQ)
中小企業経営強化税制の活用を検討する際に、多くの経営者様や経理担当者様から寄せられる質問とその回答をまとめました。申請前に疑問点を解消し、スムーズな手続きにお役立てください。
6.1 中古品やリース物件は対象になりますか?
A. 原則として新品の設備が対象となり、中古品は対象外です。リース物件については、契約形態によって扱いが異なります。
設備投資の形態は購入だけでなくリースを選択する企業も多いため、対象になるかどうかは重要なポイントです。以下にそれぞれのケースについて詳しく解説します。
6.1.1 中古品について
本税制は、最新の設備導入による生産性向上を目的としているため、対象となる資産は「新品」であることが要件とされています。したがって、中古で購入した設備は原則として適用対象外となりますのでご注意ください。
6.1.2 リース物件について
リース契約で設備を導入する場合、その契約内容によって対象可否が判断されます。具体的には以下の通りです。
| リース契約の種類 | 対象可否 | 備考 |
|---|---|---|
| ファイナンスリース契約(所有権移転) | 対象 | 契約終了後、利用者に所有権が移転するリースです。購入した場合と同様に扱われます。 |
| ファイナンスリース契約(所有権移転外) | 対象 | 利用者が選定した設備をリース会社が購入し、長期間賃貸する契約です。税務上、売買があったものとして扱われるため対象となります。 |
| オペレーティングリース契約 | 対象外 | 一般的なレンタル契約に近い形態のリースです。税務上、賃貸借取引として扱われるため、本税制の対象にはなりません。 |
リースを利用する場合、税制の適用を受けるのは設備を利用する中小企業者自身です。そのため、中小企業者自身が経営力向上計画の認定を受け、リース会社と共同で申請手続きを進める必要があります。詳細はリース会社や税理士にご確認ください。
6.2 他の税制優遇制度と併用できますか?
A. 原則として、一つの設備に対して複数の税制優遇措置を重複して適用することはできません。
国税に関する優遇措置については、いずれか一つの制度を選択して適用する「選択適用」が基本となります。例えば、中小企業経営強化税制と類似の設備投資減税である「中小企業投資促進税制」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制」などを、同一の設備について同時に利用することは認められていません。
どの制度を利用するのが最も有利になるかは、企業の利益状況、設備の種類、投資額などによって異なります。それぞれの制度の要件や優遇内容を比較検討し、自社にとって最適なものを選択する必要があります。
ただし、例外として地方税である固定資産税の特例措置との併用は可能です。先端設備等導入計画の認定を受けることで、設備にかかる固定資産税が3年間、2分の1(またはゼロから2分の1の間で市町村が定めた割合)に軽減される制度があり、こちらは中小企業経営強化税制と併用することができます。
制度の選択は専門的な判断を要するため、顧問税理士などの専門家に相談することを強く推奨します。
6.3 申請にあたって注意すべき点はありますか?
A. 最も重要な注意点は、原則として「設備の取得前」に「経営力向上計画」の認定を受ける必要があることです。その他にも、計画の具体性や税務申告時の手続きなど、いくつか押さえておくべきポイントがあります。
6.3.1 1. 計画認定のタイミング
本税制の適用を受けるためには、設備投資が「経営力向上計画」に基づいて行われることが大前提です。そのため、設備を発注・購入する前に計画を策定し、主務大臣の認定を受けておくのが原則的な流れです。認定を受ける前に設備を取得してしまうと、原則として税制優遇を受けられなくなるため、スケジュール管理には十分注意してください。詳細な手続きについては、中小企業庁が公開している「経営強化法による支援」のページをご確認ください。
6.3.2 2. 経営力向上計画の具体性
提出する経営力向上計画は、形式的なものであってはなりません。導入する設備によって「労働生産性が年率3%以上向上すること」など、具体的な数値目標とそれを達成するための具体的な取り組みを示す必要があります。計画の実現可能性や具体性が乏しいと判断された場合、認定されない可能性があります。
6.3.3 3. 類型ごとの必要書類
対象となる設備の種類(A類型〜D類型)によって、計画申請時に添付すべき書類が異なります。例えば、A類型(生産性向上設備)であれば工業会等が発行する「生産性向上設備等に係る仕様等証明書」が、B類型(収益力強化設備)であれば認定経営革新等支援機関が作成する「投資計画に関する確認書」が必要です。事前にどの類型で申請するのかを決定し、必要な書類を準備しておくことがスムーズな手続きの鍵となります。
6.3.4 4. 税務申告時の手続き
経営力向上計画の認定を受け、設備を取得しただけでは手続きは完了しません。税制優遇を受けるためには、事業年度終了後の確定申告時に、認定計画の写しや設備に関する証明書、適用額の計算に関する明細書などを添付して申告する必要があります。申告漏れがないよう、経理担当者や顧問税理士と確実に情報を共有しておきましょう。
まとめ
本記事では、中小企業の設備投資を強力に後押しする「中小企業経営強化税制」について、制度の概要から対象要件、申請手続きまでを網羅的に解説しました。
この制度の最大の特長は、設備取得費用の全額を初年度に経費計上できる「即時償却」と、法人税額から直接一定割合を控除できる「税額控除」という、2つの優遇措置から自社にとって有利な方を選択できる点にあります。
どちらを選ぶべきかについては、初年度の課税所得を大幅に圧縮してキャッシュフローを改善したい企業には「即時償却」が、一方で複数年にわたって安定的な節税効果を得たい企業には「税額控除」が適していると言えます。自社の利益状況や今後の事業計画を踏まえて慎重に判断することが重要です。
制度を利用するためには、対象設備を導入する前に「経営力向上計画」を策定し、国の認定を受ける必要があります。
中小企業経営強化税制は、生産性向上や競争力強化を目指す中小企業にとって非常に価値のある制度です。本記事を参考に、ぜひ積極的な活用を検討してみてください。手続きに不安がある場合は、顧問税理士などの専門家へ相談しましょう。
Zerofieldでは、税制適用に対応したGPUサーバーのご提供や、導入に向けた各種サポートサービスを展開しています。節税をしながら先端技術を活用したいとお考えの経営者の皆様は、ぜひ【資料請求】よりお気軽にお問い合わせください。
投稿者

ゼロフィールド
ゼロフィールド編集部は、中小企業の経営者や財務担当者の方に向けて、実践的な節税対策や経営に役立つ情報をお届けしています。私たちは、企業の成長をサポートするために、信頼性の高い情報を発信し続けます。中小企業の皆様が安心して経営に取り組めるよう、今後も価値あるコンテンツを提供してまいります。




