「IaaS(イアース)という言葉は知っていても、PaaSやSaaSとの違いや、自社に導入する具体的なメリットがよく分からない」とお悩みではありませんか。サーバーの運用コストや管理負荷、ビジネスの成長スピードに合わせた柔軟なインフラ対応は、多くの企業にとって重要な課題です。
この記事を読めば、IaaSの基本的な仕組みから、なぜコスト削減を実現できるのか、ビジネスを加速させる導入メリット、そして自社に最適なサービスの選び方まで、初心者の方にも分かりやすく理解できます。
IaaSは物理サーバーの購入や管理から企業を解放し、必要なITリソースを必要な分だけ利用できる従量課金制によって、初期投資を抑えつつビジネスの俊敏性を飛躍的に高めるクラウドサービスです。AWSやMicrosoft Azureといった具体的なサービスを例に、失敗しない選び方や活用事例も解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
IaaSとは 企業のITインフラを革新するクラウドサービス
IaaS(イアースまたはアイアース)とは、「Infrastructure as a Service」の略称で、インターネットを通じてサーバーやストレージ、ネットワークといったITインフラをサービスとして利用できるクラウドコンピューティングの一形態です。従来、企業が自社で物理的なサーバーやネットワーク機器を購入・設置し、管理・運用していた「オンプレミス」環境とは異なり、IaaSではサービス提供事業者が用意したインフラ基盤を、必要な分だけレンタルする形で利用します。これにより、企業は物理的なハードウェアを所有することなく、仮想化されたコンピューティングリソースを柔軟に活用できるようになり、ITインフラの構築・運用におけるコストや手間を大幅に削減することが可能になります。
1.1 クラウドコンピューティングの3つの基本モデル
IaaSをより深く理解するためには、クラウドサービスの他の主要なモデルである「PaaS」と「SaaS」との違いを知ることが重要です。これら3つのモデルは、サービス提供事業者が管理する範囲と、利用者が管理する範囲が異なります。料理に例えると、その違いが分かりやすくなります。
| モデル | 概要 | 料理での例え | 利用者が行うこと |
|---|---|---|---|
| IaaS (Infrastructure as a Service) | インフラ基盤を提供 | キッチンスペース、コンロ、調理器具を借りる | 食材の用意、調理、盛り付け、後片付け |
| PaaS (Platform as a Service) | アプリケーション開発・実行環境を提供 | 調理器具と食材(一部)が用意された料理キット | レシピに沿った調理、盛り付け |
| SaaS (Software as a Service) | ソフトウェア(アプリケーション)を提供 | レストランで完成した料理を注文する | 料理を食べるだけ |
このように、IaaSは最も自由度が高いモデルです。OS(オペレーティングシステム)やミドルウェア、アプリケーションといったソフトウェア部分は利用者が自由に選択・構築できるため、独自のシステム要件や複雑な構成にも対応できる柔軟性が最大の特長です。
1.2 IaaSで提供される主なリソース
IaaSでは、ITインフラを構成するための様々なコンポーネントがサービスとして提供されます。利用者はこれらのリソースを組み合わせ、自社の要件に合わせた仮想的なデータセンターをクラウド上に構築します。
- 仮想サーバー(コンピューティング)
システムの頭脳にあたる部分で、CPUやメモリ、OSなどを自由に選択して仮想的なサーバーを構築できます。代表的なサービスには、Amazon Web Services (AWS) の「Amazon EC2」や、Google Cloud の「Compute Engine」、Microsoft Azure の「Virtual Machines」などがあります。 - ストレージ
データを保存するための領域です。サーバーのディスクとして利用する「ブロックストレージ」や、大容量のデータを保管するのに適した「オブジェクトストレージ」など、用途に応じて様々な種類のストレージを選択できます。 - ネットワーク
仮想サーバー同士を接続したり、インターネットと通信したりするための機能です。仮想的なプライベートネットワーク(VPC/VNet)の構築、IPアドレスの割り当て、ファイアウォールによるセキュリティ設定、アクセス負荷を分散するロードバランサーなど、オンプレミス環境と同等の高度なネットワーク構成が可能です。
1.3 オンプレミスとの違いは「所有」から「利用」へ
IaaSの登場によって、企業のITインフラの考え方は、物理的な機器を「所有」するオンプレミス型から、サービスを「利用」するクラウド型へと大きくシフトしました。この違いは、コスト構造、スピード、管理責任の範囲など、多岐にわたります。
| 比較項目 | IaaS (クラウド) | オンプレミス |
|---|---|---|
| 初期コスト | 不要(または非常に低い) | 高額(ハードウェア購入費など) |
| コスト構造 | 変動費(OPEX:運用費) | 固定費(CAPEX:資本的支出) |
| リソース調達期間 | 数分〜数時間 | 数週間〜数ヶ月 |
| 拡張性(スケール) | 容易かつ迅速 | 困難(機器の追加購入が必要) |
| 管理責任範囲 | OS、ミドルウェア、アプリケーション | 物理インフラからアプリケーションまで全て |
オンプレミスでは、サーバーやネットワーク機器の選定・購入から設置、設定、そして日々の運用・保守(電源、空調、故障対応など)まで、すべてを自社で行う必要があります。一方、IaaSでは、これらの物理的なインフラの管理はすべてクラウド事業者に任せることができ、企業は本来注力すべきアプリケーション開発やサービス提供に集中できるようになります。この「所有から利用へ」というパラダイムシフトこそが、現代のビジネスにおける俊敏性と競争力を生み出す源泉となっているのです。
なぜIaaSでコスト削減が実現できるのか その仕組みを解説
多くの企業がIaaS(Infrastructure as a Service)を導入する最大の動機の一つが、ITインフラにかかるコストの削減です。従来のオンプレミス環境では、多額の初期投資や継続的な維持管理費用が企業の財務を圧迫する要因でした。IaaSは、このコスト構造を根本から変革し、総所有コスト(TCO)を大幅に削減する可能性を秘めています。ここでは、IaaSがどのようにしてコスト削減を実現するのか、その具体的な仕組みを2つの側面から詳しく解説します。
2.1 物理サーバーが不要になることによるコスト削減
オンプレミス環境で自社サーバーを運用する場合、ハードウェアの購入費用だけでなく、それを設置・維持するための様々な付随コストが発生します。これらは「見えにくいコスト」として、IT予算を圧迫する大きな要因となります。
IaaSを導入すると、これらの物理的な設備を自社で所有・管理する必要がなくなります。サーバーやネットワーク機器といったインフラは、Amazon Web Services (AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud (GCP)といったクラウドサービス事業者が所有・管理し、企業はインターネット経由で必要な分だけをレンタルする形になります。これにより、ハードウェア購入に伴う多額の初期投資(CAPEX)が不要となり、代わりに月々の利用料(OPEX)として経費計上できるため、キャッシュフローの改善にも繋がります。
具体的に、オンプレミス環境とIaaS環境で発生するコスト項目を比較すると、その違いは一目瞭然です。
| コスト項目 | オンプレミス環境 | IaaS環境 |
|---|---|---|
| ハードウェアコスト | サーバー、ストレージ、ネットワーク機器などの購入費用が発生(高額な初期投資) | 不要(サービス利用料に含まれる) |
| 設備・設置コスト | データセンターの賃料や構築費用、電源・空調・耐震設備などの費用が発生 | 不要(サービス利用料に含まれる) |
| 運用・保守コスト | ハードウェアの保守契約料、故障時の交換費用、電気代、サーバー管理者の人件費など継続的に発生 | 物理層の管理は不要となり、関連コストと人件費を大幅に削減可能 |
| 資産管理コスト | 固定資産税の支払い、減価償却の会計処理が必要 | 不要 |
このように、IaaSは物理サーバーを「所有」するモデルから「利用」するモデルへと転換させることで、インフラに関わる様々なコストを削減します。
2.2 従量課金制による最適なリソース利用
IaaSがコスト削減に貢献するもう一つの大きな仕組みが「従量課金制(Pay-as-you-go)」です。これは、利用した分だけ料金を支払うという非常に合理的な料金体系です。
オンプレミス環境では、将来の事業拡大や突発的なアクセス増加に備え、最大負荷(ピーク時)を想定してハイスペックなサーバーを用意するのが一般的です。しかし、これは通常時には使われない過剰なリソースを常に抱えることを意味し、結果として無駄なコストを支払い続けることになります。
一方、IaaSでは、CPU、メモリ、ストレージといったコンピューティングリソースを、ビジネスの需要に応じていつでも柔軟に増減させることができます。例えば、ECサイトが大規模なセールを実施する期間だけサーバーの性能を向上させ(スケールアップ)、セール終了後には元の性能に戻すといった運用が簡単に行えます。また、アクセス数に応じて自動的にサーバー台数を増減させる「オートスケーリング」機能を利用すれば、機会損失を防ぎつつ、コストを最適化することが可能です。
この柔軟性により、企業は以下のようなメリットを得られます。
- リソースの過剰投資を防止:常に最適なリソース量でシステムを稼働させられるため、無駄なコストが発生しません。
- 機会損失の回避:急なアクセス増にも迅速に対応できるため、サーバーダウンによるビジネスチャンスの損失を防ぎます。
- スモールスタートが可能:新規事業を立ち上げる際に、最小限の構成からスタートし、事業の成長に合わせてインフラを拡張していくことができます。
このように、IaaSの従量課金制は、ビジネスの状況に合わせた俊敏なリソース調整を可能にし、ITコストの最適化を実現する上で極めて重要な役割を果たします。
IaaS導入で企業が得られるメリット
IaaS(Infrastructure as a Service)の導入は、単にITインフラのコストを削減するだけでなく、ビジネスの成長を加速させるための多くの戦略的メリットをもたらします。物理的な制約から解放されることで、企業はこれまでにない俊敏性と柔軟性を手に入れることができます。ここでは、IaaSが企業にもたらす具体的なメリットを3つの側面から詳しく解説します。
3.1 ビジネスの成長に合わせた柔軟なスケーラビリティ
IaaSが提供する最大のメリットの一つが、ビジネスの需要変動に応じてITリソースを迅速かつ柔軟に拡張・縮小できる「スケーラビリティ」です。従来のオンプレミス環境では、アクセス急増に備えてあらかじめ高性能なサーバーを過剰に用意しておくか、必要になってから数週間かけてサーバーを調達・設定する必要がありました。IaaSを利用すれば、このような課題を解決できます。
例えば、ECサイトがテレビCMやセールで一時的にアクセスが集中する場合、必要な時間だけサーバーの台数や性能を増強し、キャンペーン終了後には元の規模に戻すといった運用が可能です。これにより、機会損失を防ぎつつ、無駄なコストの発生を抑えることができます。スケーラビリティには、サーバーの性能を向上させる「スケールアップ」と、サーバーの台数を増やす「スケールアウト」の2種類があり、IaaSではどちらも容易に実現できます。
| 種類 | 概要 | 具体例 |
|---|---|---|
| スケールアップ / ダウン | サーバー1台あたりの性能(CPU、メモリ、ストレージなど)を増強または削減すること。 | データベースサーバーの処理能力を高めるために、より高性能なCPUや大容量メモリのインスタンスタイプに変更する。 |
| スケールアウト / イン | サーバーの台数を増やしたり減らしたりして、システム全体の処理能力を調整すること。 | Webサイトへのアクセス急増に対応するため、Webサーバーの仮想マシンを複数台に増やして負荷分散を行う。 |
新規事業をスモールスタートさせ、事業の成長に合わせてインフラを拡張していくといった使い方も可能です。IaaSは、予測が困難なビジネス環境において、企業に変化対応力という強力な武器を与えてくれます。
3.2 開発スピードの向上と市場投入までの時間短縮
現代のビジネスにおいて、サービスの市場投入までの時間(Time to Market)は競争優位性を左右する重要な要素です。IaaSは、インフラ調達のリードタイムを劇的に短縮し、開発プロセス全体を高速化することで、この課題に応えます。
オンプレミス環境では、開発チームが新しいサーバーを必要としても、発注、納品、設置、OSやミドルウェアのインストールといった手順を踏むため、実際に利用できるまでには数週間から数ヶ月かかることも珍しくありませんでした。しかし、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)などのIaaS環境では、開発者は管理コンソールやAPIを通じて、わずか数分で必要なスペックの仮想サーバーを構築(プロビジョニング)できます。
この迅速なインフラ調達は、特にアジャイル開発やDevOpsといったモダンな開発手法と非常に親和性が高いです。APIを利用してインフラの構成をコードで管理する「Infrastructure as Code(IaC)」を実践すれば、開発環境、テスト環境、本番環境を自動で、かつ一貫性を持って構築できます。これにより、手作業によるミスを減らし、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインを効率化することで、アプリケーションのリリースサイクルを大幅に短縮することが可能になります。
3.3 運用保守業務の負担軽減
IaaSを導入することで、企業は物理的なITインフラの運用保守業務から解放されます。これは、情報システム部門の担当者が、より付加価値の高い戦略的な業務に集中するための大きな一歩となります。
クラウドサービスには「責任共有モデル」という考え方があります。IaaSの場合、クラウド事業者(AWS、Azure、GCPなど)がデータセンターの物理的なセキュリティ、サーバーやストレージ、ネットワーク機器といったハードウェアの管理、電源や空調の維持などを担当します。つまり、ハードウェアの故障対応や老朽化に伴うリプレース計画、ファームウェアのアップデートといった、これまで情報システム部門を悩ませてきた煩雑な業務をアウトソースできるのです。
利用企業側の責任範囲は、OS以上のレイヤー、つまりOSのセキュリティパッチ適用、ミドルウェア、アプリケーション、データの管理となります。物理インフラの管理というノンコア業務から解放されることで、担当者は自社のビジネス成長に直結するアプリケーション開発の最適化や、高度なセキュリティ対策の企画・実行といったコア業務にリソースを再配分できるようになります。これにより、IT部門は単なる「コストセンター」から、ビジネスを牽引する「プロフィットセンター」へと変革を遂げるきっかけを得ることができるのです。
IaaSとPaaS SaaS 何をどう選ぶべきか
クラウドサービスには、IaaSの他に「PaaS(Platform as a Service)」と「SaaS(Software as a Service)」という主要なサービスモデルが存在します。これらは、クラウド事業者が提供するサービスの範囲、つまりユーザーが管理する必要のある範囲が異なります。この「責任共有モデル」を理解することが、自社に最適なサービスを選ぶ上での鍵となります。それぞれの特徴を比較し、どのようなケースでどのモデルを選ぶべきかを詳しく見ていきましょう。
| IaaS (Infrastructure as a Service) | PaaS (Platform as a Service) | SaaS (Software as a Service) | |
|---|---|---|---|
| 概要 | 仮想サーバーやネットワークなどのインフラを提供 | アプリケーション開発・実行環境(プラットフォーム)を提供 | すぐに利用できるソフトウェア(アプリケーション)を提供 |
| ユーザーの管理範囲 | OS、ミドルウェア、アプリケーション、データ | アプリケーション、データ | 設定やデータの一部のみ |
| 事業者の管理範囲 | サーバー、ストレージ、ネットワーク、仮想化基盤 | OS、ミドルウェア、サーバー、ストレージ、ネットワーク、仮想化基盤 | アプリケーション、ミドルウェア、OS、サーバー、ストレージ、ネットワーク、仮想化基盤 |
| 自由度 | 高い | 中程度 | 低い |
| 専門知識 | インフラの知識が必要 | アプリケーション開発の知識が必要 | 不要 |
| 代表的なサービス | Amazon EC2, Google Compute Engine, Microsoft Azure Virtual Machines | Google App Engine, Heroku, Microsoft Azure App Service | Microsoft 365, Google Workspace, Salesforce, Slack |
4.1 IaaSが最適なケース
IaaSは、インフラ層を自由に設計・構築できるため、最も自由度の高いサービスモデルです。既存のオンプレミス環境で稼働しているシステムを、構成を大きく変えずにクラウドへ移行(リフト&シフト)したい場合に最適です。OSやミドルウェア、ネットワーク構成などを自社で細かくコントロールする必要がある基幹システムや、特殊なソフトウェア要件を持つアプリケーションの実行基盤として選ばれます。
また、独自の開発環境や、特定のバージョンのOS・ミドルウェアが必須となるシステムの基盤としてもIaaSが適しています。インフラに関する専門知識を持つエンジニアが社内に在籍しており、インフラのパフォーマンスやセキュリティを自社で厳密に管理したい企業にとって、IaaSは強力な選択肢となるでしょう。
4.2 PaaSが最適なケース
PaaSは、アプリケーションを開発し、実行するための環境(プラットフォーム)一式が提供されるサービスです。サーバーやOS、ミドルウェアのセットアップや管理はクラウド事業者が行うため、開発者はインフラの運用を気にすることなく、アプリケーションのコーディングに集中できます。Webアプリケーションやモバイルアプリのバックエンドなどを迅速に開発し、市場に投入したい場合に最も効果を発揮します。
インフラ管理のコストや手間を削減し、開発リソースを本来の目的である「価値あるアプリケーションの創造」に集中させたい開発チームやスタートアップ企業にとって、PaaSは理想的な選択です。ただし、提供されるプラットフォームの仕様(利用できるプログラミング言語やデータベースなど)に制約があるため、その範囲内で開発が可能かどうかの事前確認が必要です。
4.3 SaaSが最適なケース
SaaSは、完成されたソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービスモデルです。ユーザーはアカウントを契約するだけで、ソフトウェアのインストールやアップデート、サーバーの保守などを一切行う必要がありません。専門的なIT知識がなくても、特定の業務を効率化するツールをすぐに導入・利用したい場合に適しています。
例えば、メールやスケジュール管理、顧客管理(CRM)、会計処理といった、多くの企業で共通して必要とされる業務アプリケーションは、SaaSとして提供されているものが多数あります。初期投資を抑え、必要な機能を必要な期間だけ利用できるため、特に中小企業や特定の部門でのツール導入において、SaaSは第一の選択肢となるでしょう。カスタマイズの自由度は低いですが、その分、手軽さとコスト効率の高さが大きな魅力です。
失敗しないIaaSサービスの選び方 3つのポイント
IaaSは多くのベンダーから提供されており、それぞれに特徴があります。自社の目的や要件に合わないサービスを選んでしまうと、「想定以上にコストがかさんだ」「必要な機能がなかった」「トラブル発生時に迅速な対応が受けられなかった」といった失敗につながりかねません。ここでは、数あるIaaSサービスの中から最適なものを選ぶための、3つの重要なポイントを解説します。このポイントを押さえることで、自社のビジネスを成功に導くIaaS基盤を構築できるでしょう。
5.1 ポイント1 料金体系とコストシミュレーション
IaaSの導入でコスト削減効果を最大化するためには、料金体系の理解が不可欠です。多くのIaaSサービスでは、複数の課金モデルが用意されており、利用形態に合わせて選択することでコストを最適化できます。
代表的な課金モデルには、利用した分だけ料金が発生する「従量課金制」と、長期利用を約束することで割引が適用される「リザーブドインスタンス」や「Savings Plans」のような定額制(割引プラン)があります。それぞれの特徴を理解し、自社の利用予測と照らし合わせることが重要です。
| 課金モデル | 特徴 | メリット | デメリット | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|
| 従量課金制 | CPU、メモリ、ストレージ、データ転送量など、リソースの利用時間や量に応じて秒単位・分単位で課金される。 | ・初期費用が不要でスモールスタートが可能 ・需要の増減に合わせて無駄なくリソースを利用できる | ・利用量が予測しづらいと予算を立てにくい ・リソースを継続的に利用すると割高になる可能性がある | ・開発・検証環境 ・アクセスが急増するキャンペーンサイト ・新規事業の立ち上げ |
| 定額制(割引プラン) 例: リザーブドインスタンス, Savings Plans | 1年または3年といった長期間の利用をコミット(予約)することで、従量課金に比べて大幅な割引が適用される。 | ・利用量が安定していれば大幅なコスト削減が可能 ・予算の見通しが立てやすい | ・需要が減少した場合でも料金が発生する ・コミット期間中のプラン変更に制約がある場合がある | ・常時稼働する本番環境のWebサーバー ・データベースサーバー ・基幹システム |
サービスを選定する際には、必ず各ベンダーが提供する公式の料金シミュレーターを活用しましょう。Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) といった主要なクラウドベンダーは、詳細な条件を指定して料金を見積もれるツールをWebサイトで公開しています。CPUコア数、メモリ容量、ストレージの種類と容量、想定されるデータ転送量などを入力し、複数のサービスでコストを比較検討することが失敗を避ける鍵となります。また、データ転送料金やストレージの読み書き(I/O)料金など、見落としがちな「隠れたコスト」にも注意が必要です。
5.2 ポイント2 サポート体制の充実度
IaaSはインフラをサービスとして利用するため、万が一の障害発生時や技術的な問題に直面した際に、ベンダーからのサポートが非常に重要になります。特に、自社にインフラ専門のエンジニアが少ない場合は、サポート体制の充実度がサービス選定の決め手となることもあります。
まず確認すべきは、SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証制度)です。SLAでは、サービスの稼働率(例: 99.99%など)が保証されており、これを下回った場合には利用料金の一部が返金されるなどの補償が定められています。自社のシステムに求められる可用性と、ベンダーが提示するSLAの保証値が見合っているかを確認しましょう。
次に、具体的なサポートプランの内容を比較検討します。多くのベンダーでは、無料プランから24時間365日対応の有料プランまで、複数のサポートレベルが用意されています。
| 比較項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 対応時間・言語 | 24時間365日の対応が可能か。日本語によるサポートが受けられるか。 |
| 対応チャネル | メール、チャット、電話など、どのような方法で問い合わせが可能か。 |
| 応答時間 | 問い合わせてから最初の返答があるまでの目標時間。システムの重要度に応じて適切なプランを選ぶ。 |
| 技術支援の範囲 | 基本的な使い方に関する質問から、アーキテクチャ設計のレビューやパフォーマンスチューニングの支援まで、どこまでのサポートが受けられるか。 |
| 料金 | 月額固定料金か、利用料金に対する割合か。コストとサービス内容のバランスを検討する。 |
システムの重要性や自社の技術力に応じて、最適なサポートプランを選択することが安定運用の鍵となります。また、公式ドキュメントの分かりやすさや、ユーザーコミュニティの活発さも、問題解決の助けとなるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
5.3 ポイント3 セキュリティとコンプライアンス
企業の重要なデータを扱うIaaS基盤において、セキュリティは最も優先すべき項目の一つです。IaaSのセキュリティを考える上で基本となるのが、「責任共有モデル」です。
責任共有モデルとは、クラウド環境のセキュリティ責任を、クラウドを提供するベンダーと、それを利用するユーザー企業とで分担するという考え方です。IaaSの場合、ベンダーはデータセンターの物理セキュリティやサーバー、ストレージ、ネットワークといったインフラ部分のセキュリティを担います。一方、ユーザーはOS、ミドルウェア、アプリケーション、そしてデータそのもののセキュリティ対策(アクセス管理、暗号化、脆弱性対策など)に責任を持ちます。どこまでがベンダーの責任範囲で、どこからが自社の責任範囲なのかを正確に把握しておくことが、セキュリティインシデントを防ぐ第一歩です。
その上で、ベンダーがどのようなセキュリティ対策を実施し、第三者機関による認証を取得しているかを確認します。信頼性の高いベンダーは、自社のセキュリティレベルを客観的に証明するために、以下のような認証を取得・公開しています。
| 認証・基準名 | 概要 |
|---|---|
| ISO/IEC 27001 (ISMS) | 情報セキュリティマネジメントシステムに関する国際規格。組織的な情報セキュリティ管理体制が構築・運用されていることを示す。 |
| SOC (Service Organization Control) 報告書 | 米国公認会計士協会(AICPA)が定める、外部委託サービスの内部統制に関する報告書。SOC1は財務報告、SOC2はセキュリティや可用性などに関する報告書。 |
| PCI DSS | クレジットカード業界のセキュリティ基準。カード会員情報を安全に取り扱うための技術的・運用的要件を定めている。 |
| ISMAP | 政府情報システムのためのセキュリティ評価制度。日本の政府機関が利用するクラウドサービスに求められるセキュリティ要件を満たしていることを示す。 |
自社の業界や取り扱うデータの種類によっては、特定のコンプライアンス要件(金融業界のFISC安全対策基準、医療業界の3省2ガイドラインなど)への準拠が求められる場合があります。選定するIaaSサービスが、これらの要件を満たすための機能や認証を備えているかを確認することが不可欠です。また、データセンターが国内外のどこに設置されているか(データ所在地)も、個人情報保護法などの法規制の観点から重要なチェックポイントとなります。
IaaSの具体的な活用事例
IaaSは、その柔軟性と拡張性の高さから、企業のさまざまなIT課題を解決するソリューションとして多岐にわたるシーンで活用されています。ここでは、代表的な3つの活用事例を紹介し、IaaSがどのようにビジネスに貢献するのかを具体的に解説します。
6.1 事例1 Webサービスのインフラ基盤
ECサイトやニュースメディア、キャンペーンサイトなど、アクセスの変動が激しいWebサービスのインフラ基盤としてIaaSは非常に有効です。オンプレミス環境では、最大のアクセス数を想定してサーバーリソースを用意する必要があり、通常時のコストが過大になりがちでした。
IaaSを活用すれば、オートスケーリング機能によってトラフィックの増減に合わせてサーバーリソースを自動的に拡張・縮小できます。これにより、セールやメディア掲載による突然のアクセス急増時にもサーバーダウンを防ぎ、機会損失を回避します。逆にアクセスが少ない時間帯はリソースを縮小し、コストを最適化することが可能です。ロードバランサーも簡単に導入できるため、安定したサービス提供を実現します。
| 項目 | オンプレミス環境での課題 | IaaSによる解決策 |
|---|---|---|
| リソースの拡張性 | アクセス急増に対応できず、サーバーダウンのリスクがある。物理的な増設に時間とコストがかかる。 | オートスケーリングにより、アクセス数に応じてリソースを自動で増減。安定稼働とコスト最適化を両立。 |
| 初期コスト | 高スペックな物理サーバーやネットワーク機器の購入に多額の初期投資が必要。 | 物理機器の購入が不要なため、初期コストを大幅に抑制。スモールスタートが可能。 |
| 運用負荷 | ハードウェアの保守・管理や障害対応に専門の人員と工数が必要。 | ハードウェアの管理はクラウド事業者に任せられるため、運用負荷が大幅に軽減される。 |
6.2 事例2 開発・検証環境の構築
ソフトウェアやアプリケーションの開発プロセスにおいて、開発環境やテスト環境、本番環境に近いステージング環境など、複数の環境が必要になります。これらの環境を物理サーバーで用意する場合、調達に時間がかかり、コストも高くなるという課題がありました。
IaaSを利用すれば、開発者が必要な時に必要なスペックの仮想サーバーを数分で構築できます。プロジェクトやテストの要件に応じて、複数の環境を並行して立ち上げたり、不要になった環境をすぐに破棄(スクラップアンドビルド)したりすることが容易です。これにより、開発者はインフラの準備に時間を費やすことなく、本来の開発業務に集中でき、開発サイクルの高速化と品質向上に繋がります。
6.3 事例3 バックアップと災害対策
企業にとってデータの保護と事業継続は最重要課題の一つです。地震や水害などの自然災害や、大規模なシステム障害が発生した際に、事業を迅速に復旧させるための災害対策(DR: Disaster Recovery)が求められます。
IaaSは、BCP(事業継続計画)やDRサイトの構築に最適なソリューションです。多くのIaaS事業者は、国内の複数拠点や海外に物理的に離れたデータセンター(リージョン)を保有しています。これらを活用することで、本番環境とは地理的に離れた場所にデータのバックアップやシステムの複製を低コストで構築できます。例えば、メインシステムを東京リージョンで稼働させ、バックアップを大阪リージョンに保管するといった構成が可能です。自社で遠隔地にデータセンターを確保する場合と比較して、コストと運用負荷を劇的に削減しながら、堅牢な災害対策を実現します。
| 項目 | オンプレミス環境での課題 | IaaSによる解決策 |
|---|---|---|
| コスト | 遠隔地にデータセンターを契約し、本番同様の機器を揃える必要があり、莫大なコストがかかる。 | 従量課金制のため、バックアップデータの保管や、災害時のみ稼働させる待機系システムのコストを低く抑えられる。 |
| 構築・運用の手間 | DRサイトの設計、構築、定期的なテストに専門的な知識と多くの工数が必要。 | クラウド事業者が提供するツールやサービスを活用し、迅速にDR環境を構築可能。運用の自動化も容易。 |
| 地理的な冗長性 | 自社で複数の遠隔地拠点を確保するのは困難な場合が多い。 | 国内外に分散されたデータセンターを簡単に利用でき、高いレベルの地理的冗長性を確保できる。 |
まとめ
本記事では、IaaSの基本的な仕組みから、企業が享受できるコスト削減やビジネス上の具体的なメリット、そしてPaaSやSaaSとの違いについて解説しました。
IaaSを導入する最大の理由は、物理サーバーの購入や維持管理が不要になること、そしてリソースを必要な分だけ利用する従量課金制により、ITインフラのコストを最適化できる点にあります。さらに、ビジネスの成長や需要の変動に迅速に対応できる高いスケーラビリティは、開発スピードの向上と市場競争力の強化に直結します。
IaaSは自由度の高いインフラ環境を構築できる一方で、PaaSやSaaSとは提供されるサービスの範囲が異なります。その効果を最大限に引き出すためには、自社の目的や技術力を踏まえ、最適なサービスモデルを選択することが不可欠です。サービスを選ぶ際には、本記事で紹介した「料金体系」「サポート体制」「セキュリティ」の3つのポイントを比較検討し、自社に最も適したサービスを見極めましょう。
IaaSは、単なるコスト削減ツールではなく、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させ、新たなビジネスチャンスを創出するための強力な基盤です。
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投稿者

ゼロフィールド
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