バイオマス発電が、脱炭素社会の実現に向けた次世代エネルギーとして注目されています。その理由は、天候に左右されず安定供給でき、廃棄物を資源として活用できるカーボンニュートラルな発電方法だからです。本記事では、バイオマス発電の仕組みや種類、メリット・デメリットを基礎から徹底解説。国内の導入事例やFIT制度の動向、将来性まで網羅し、その全貌を明らかにします。

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目次
  1. バイオマス発電とは 基礎からわかる仕組みと特徴
    1. 1.1 再生可能エネルギーとしての位置づけ
    2. 1.2 カーボンニュートラルを実現する仕組み
  2. バイオマス発電で使われる燃料の種類
    1. 2.1 木質バイオマス(間伐材や製材廃材など)
    2. 2.2 農業・食品由来バイオマス(食品廃棄物や家畜排泄物など)
    3. 2.3 その他のバイオマス資源(下水汚泥や建設発生木材など)
  3. バイオマス発電の主な発電方法3つ
    1. 3.1 直接燃焼方式
    2. 3.2 熱分解ガス化方式
    3. 3.3 生物化学的ガス化方式(メタン発酵)
  4. バイオマス発電のメリット5選
    1. 4.1 天候に左右されず安定した電力供給が可能
    2. 4.2 未利用資源や廃棄物の有効活用
    3. 4.3 地球温暖化対策への貢献
    4. 4.4 地域経済の活性化と雇用創出
    5. 4.5 廃棄物処理問題の解決
  5. 知っておくべきバイオマス発電のデメリットと課題
    1. 5.1 燃料の収集・運搬・管理にコストがかかる
    2. 5.2 資源の安定確保が難しい場合がある
    3. 5.3 小規模分散型になりやすく発電効率が課題
  6. 日本国内におけるバイオマス発電の導入事例
    1. 6.1 大規模木質バイオマス発電所の事例
    2. 6.2 食品廃棄物を活用したバイオガス発電の事例
    3. 6.3 地域資源を循環させる小規模発電の事例
  7. バイオマス発電の現状と2025年以降の将来性
    1. 7.1 日本のエネルギー政策における目標
    2. 7.2 FIT制度(固定価格買取制度)の動向
    3. 7.3 マイニングマシンの発電に活用
    4. 7.4 次世代技術と今後の展望
  8. まとめ

バイオマス発電とは 基礎からわかる仕組みと特徴

バイオマス発電とは、木材チップ、食品廃棄物、家畜の糞尿、下水汚泥といった、動植物から生まれる生物由来の有機性資源「バイオマス」を燃料として電気を生み出す発電方法です。近年、地球温暖化対策や持続可能な社会の実現に向けた動きが加速する中で、環境にやさしいエネルギーとして大きな注目を集めています。この章では、バイオマス発電の基本的な概念と、その重要な特徴について分かりやすく解説します。

1.1 再生可能エネルギーとしての位置づけ

バイオマス発電は、太陽光、風力、水力、地熱などと並ぶ「再生可能エネルギー」の一つに位置づけられています。再生可能エネルギーとは、資源が枯渇することなく、繰り返し利用できるエネルギー源のことを指します。

再生可能エネルギーの中でも、バイオマス発電には特筆すべき強みがあります。それは、天候に左右されず、安定的に電力を供給できる点です。太陽光発電は夜間や雨の日には発電できず、風力発電は風が吹かなければ停止してしまいます。一方、バイオマス発電は燃料であるバイオマスを貯蔵しておくことで、天候や時間帯に関わらず24時間365日、計画的かつ安定した発電が可能です。この安定性から、社会インフラを支える重要な「ベースロード電源」としての役割も期待されています。日本の「FIT制度(固定価格買取制度)」の対象でもあり、国を挙げて導入が推進されています。

発電方式天候への依存度電力の安定性資源の場所
バイオマス発電低い高い(燃料があれば24時間稼働可能)地域に分散(森林、農地、都市部など)
太陽光発電高い(昼間・晴天時のみ)低い(変動が大きい)日当たりの良い広い土地が必要
風力発電高い(風が吹くときのみ)低い(変動が大きい)風況の良い場所に限定

1.2 カーボンニュートラルを実現する仕組み

バイオマス発電が地球温暖化対策の切り札として期待される最大の理由が、「カーボンニュートラル」という性質にあります。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになる状態を指します。

「燃料を燃やすのに、なぜCO2が増えないのか」と疑問に思われるかもしれません。その鍵は、バイオマスの元となる植物のライフサイクルにあります。植物は、成長の過程で光合成を行い、大気中のCO2を吸収して体内に炭素として固定します。バイオマス発電では、この植物由来の燃料を燃焼させるため、CO2が排出されます。しかし、この排出されるCO2は、もともと植物が成長過程で大気中から吸収したものであり、再び大気に還るだけです。そのため、ライフサイクル全体で見れば、大気中のCO2の総量を新たに増やすことはありません。

この点が、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料との決定的な違いです。化石燃料は、太古の生物によって地中に固定された炭素を燃やすため、燃焼させると大気中のCO2濃度を一方的に増加させてしまいます。バイオマス発電は、このカーボンニュートラルの特性により、脱炭素社会を実現するための重要なエネルギー源として世界的に評価されています。

バイオマス発電で使われる燃料の種類

バイオマス発電の燃料となる「バイオマス」とは、動植物から生まれた生物由来の再生可能な有機性資源を指します(化石燃料を除く)。これらの資源は、その由来によって大きく3つのカテゴリーに分類されます。これまで廃棄されていたものや、活用されていなかった未利用資源をエネルギーに変えることで、持続可能な社会の実現に貢献します。ここでは、それぞれの燃料の種類と特徴を詳しく見ていきましょう。

2.1 木質バイオマス(間伐材や製材廃材など)

木質バイオマスは、森林の育成過程で発生する間伐材や、製材工場などから出る樹皮、おがくずといった木材由来の資源です。日本のバイオマス発電において最も主要な燃料として利用されています。これらの資源を燃料として活用することは、森林の健全な育成を促し、林業の活性化にも貢献するという大きなメリットがあります。

木質バイオマスの種類主な内容と特徴
間伐材・林地残材森林を健全に保つために伐採される木材(間伐材)や、伐採後に林地に残された枝葉、根株など。国内の森林資源を有効活用する上で重要です。
製材廃材製材工場で木材を加工する際に出る樹皮、のこくず、端材など。品質が安定しており、燃料として利用しやすい特徴があります。
木質ペレット・チップ間伐材や製材廃材などを乾燥させ、圧縮成形した固形燃料(ペレット)や、細かく砕いたもの(チップ)。運搬や貯蔵がしやすく、燃焼効率も高いです。
PKS(パーム椰子殻)パーム油を生産する過程で発生するヤシの殻。主に東南アジアから輸入される燃料で、発熱量が高く、大規模なバイオマス発電所で利用されています。

2.2 農業・食品由来バイオマス(食品廃棄物や家畜排泄物など)

農業や食品製造業、そして私たちの食生活から発生する有機性の廃棄物も、貴重なバイオマス資源となります。これらは「食品リサイクル法」などに基づき、再生利用が推進されています。食品ロス問題や廃棄物処理問題の解決策として、また地域の資源循環を生み出す手段として大きな注目を集めています。

農業・食品由来バイオマスの種類主な内容と特徴
農業残渣(のうぎょうざんさ)稲わら、もみ殻、麦わらなど、農作物の収穫時に発生する非可食部。これまでは焼却処分されることも多かった資源をエネルギーとして活用します。
食品廃棄物食品工場から出る野菜くずやパンの耳、消費期限切れの食品、家庭や飲食店から出る生ごみなど。メタン発酵によるバイオガス発電の主な原料となります。
家畜排泄物牛、豚、鶏などの家畜から出る糞尿。悪臭の原因となるだけでなく、適切に処理しないと環境汚染を引き起こすため、エネルギー化は一石二鳥の解決策です。
エネルギー作物サトウキビやトウモロコシなど、エネルギー生産を目的として栽培される植物。食料との競合が課題となる場合もありますが、耕作放棄地の活用策として期待されています。

2.3 その他のバイオマス資源(下水汚泥や建設発生木材など)

私たちの日常生活や経済活動に伴って発生する、さまざまな有機性廃棄物もバイオマス発電の燃料として活用されています。これらは都市部で安定的に発生するため「都市型バイオマス」とも呼ばれ、廃棄物処理コストの削減とエネルギーの地産地消を両立できる、循環型社会の実現に不可欠な資源です。資源エネルギー庁もこれらの多様なバイオマスの活用を推進しています。(参考: 経済産業省 資源エネルギー庁「バイオマス発電」

その他のバイオマス資源主な内容と特徴
下水汚泥下水処理場で水を浄化する過程で発生する汚泥。汚泥をメタン発酵させて生成した「消化ガス」を燃料に発電し、処理場内の電力として利用する例が増えています。
建設発生木材住宅の解体などで発生する木材廃棄物。化学物質による汚染がないものはチップ化され、木質バイオマス燃料としてリサイクルされます。
製紙工場の黒液紙の原料となる木材パルプを製造する過程で発生する、黒色の液体状の副産物。製紙工場内で自家発電の燃料として利用されることが多く、エネルギー効率が高いです。
一般廃棄物(紙、生ごみなど)家庭などから排出される可燃ごみのうち、紙類や生ごみといった生物由来のものを指します。廃棄物発電施設で焼却する際にエネルギーとして回収されます。

バイオマス発電の主な発電方法3つ

バイオマス発電と一言でいっても、その発電方法は一つではありません。使用する燃料の種類や水分量、施設の規模などに応じて、最適な発電方法が選択されます。現在、主流となっているのは「直接燃焼方式」「熱分解ガス化方式」「生物化学的ガス化方式」の3つです。それぞれの仕組みと特徴を理解することで、バイオマス発電への理解がより一層深まるでしょう。ここでは、各方式の具体的な内容を詳しく解説します。

3.1 直接燃焼方式

直接燃焼方式は、バイオマス発電の中で最もシンプルで、広く普及している実績豊富な発電方式です。その名の通り、木質チップやペレット、製材廃材といったバイオマス燃料をボイラーで直接燃やし、その際に発生する熱エネルギーを利用します。

具体的な仕組みは、以下の通りです。

  1. バイオマス燃料をボイラーで燃焼させ、高温の熱を発生させます。
  2. その熱で水を沸騰させ、高温・高圧の蒸気を作り出します。
  3. 発生した蒸気の力で蒸気タービンを高速で回転させます。
  4. タービンに直結した発電機が回転することで、電気が生まれます。

このプロセスは、石炭などを燃料とする従来の火力発電と基本的には同じです。技術的に確立されているため、大規模な発電所から小規模な施設まで幅広く採用されています。主に、乾燥した木質バイオマスや、可燃性の廃棄物を固形燃料化したRPFなどが燃料として用いられます。ただし、燃料の含水率が高いと燃焼効率が低下するため、事前の乾燥処理が必要になる場合があります。

3.2 熱分解ガス化方式

熱分解ガス化方式は、バイオマス燃料を直接燃やすのではなく、一度ガスに変換してから発電に利用する、より高度な技術です。直接燃焼方式よりも高い発電効率が期待できるため、次世代の技術として注目されています。

この方式では、ガス化炉の中でバイオマス燃料を低酸素の状態で加熱(蒸し焼き)し、水素や一酸化炭素を主成分とする可燃性のガス(合成ガス、シンガスとも呼ばれる)を生成します。その後、生成されたガスを燃料として、ガスタービンやガスエンジンを動かして発電します。

さらに、ガスタービンを回した後の排熱を利用して蒸気を作り、蒸気タービンも回す「コンバインドサイクル発電(複合発電)」と組み合わせることで、エネルギーを二段階で回収し、発電効率を大幅に向上させることが可能です。一方で、ガス化の過程で発生するタール(木酢液の成分)などの不純物を除去する高度なガス精製技術が必要となる点が課題とされています。

3.3 生物化学的ガス化方式(メタン発酵)

生物化学的ガス化方式は、熱を使わずに微生物の力を利用して発電するユニークな方法です。特に、水分を多く含む有機性のバイオマスを効率的にエネルギーへ変換できるという大きな特徴があります。この方式は「メタン発酵」とも呼ばれています。

仕組みは、家畜の排泄物や食品廃棄物、下水汚泥といった有機物を、酸素のない状態(嫌気状態)に置かれた発酵槽に投入します。すると、メタン菌などの微生物が有機物を分解し、メタンガスを主成分とする「バイオガス」が発生します。このバイオガスを燃料としてガスエンジンなどで燃焼させ、発電機を回して電気を作ります。

この方式の優れた点は、発電だけでなく、発酵後に残った消化液を農作物のための液体肥料や堆肥として再利用できることです。エネルギーと資源を地域内で循環させる持続可能なシステムを構築できるため、食品リサイクル施設や畜産農家、下水処理場などで導入が進んでいます。発電効率自体は他の方式に比べて高くありませんが、廃棄物処理と資源循環を同時に実現できる付加価値の高い発電方法と言えるでしょう。

これら3つの主要な発電方法を以下の表にまとめました。

発電方式主な燃料発電の仕組み特徴
直接燃焼方式木質チップ、ペレット、間伐材、PKS(パーム椰子殻)、RPFなど燃料を直接燃やして蒸気を発生させ、蒸気タービンを回す。技術が確立しており実績が豊富。大規模発電に向いているが、燃料の乾燥が必要な場合がある。
熱分解ガス化方式木質チップ、農業残渣、建設発生木材など燃料を低酸素で加熱して可燃性ガスを生成し、ガスタービンやガスエンジンを回す。直接燃焼より発電効率が高い。コンバインドサイクル化でさらに高効率化が可能。
生物化学的ガス化方式
(メタン発酵)
食品廃棄物、家畜排泄物、下水汚泥、エネルギー作物など微生物の働きでメタンガス(バイオガス)を発生させ、ガスエンジンなどを回す。水分が多い燃料に適している。発電後の残渣を肥料として利用でき、資源循環型社会に貢献する。

このように、バイオマス発電は燃料の特性に合わせて多様な技術が開発されており、それぞれが異なる強みを持っています。日本のエネルギー事情や地域社会の課題解決に貢献する技術として、今後もさらなる技術開発と普及が期待されています。

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バイオマス発電のメリット5選

バイオマス発電は、地球環境への配慮だけでなく、私たちの社会や経済にも多くの利点をもたらす再生可能エネルギーです。太陽光や風力といった他の再生可能エネルギーにはない独自の強みも持っています。ここでは、バイオマス発電が持つ5つの主要なメリットを、具体的な理由とともに詳しく解説します。

4.1 天候に左右されず安定した電力供給が可能

バイオマス発電の最大のメリットの一つは、天候や時間帯に左右されず、24時間365日安定して電気を生み出せる点にあります。燃料となるバイオマス資源さえ確保できれば、計画的に発電プラントを稼働させ続けることが可能です。

太陽光発電は夜間や雨天時には発電できず、風力発電も風の強弱によって出力が大きく変動します。これに対し、バイオマス発電は出力を一定に保ちやすいため、電力系統を安定させる「ベースロード電源」としての役割が期待されています。電力需要の基盤を支える重要な電源となり得るポテンシャルを秘めているのです。

発電方式天候への依存度発電の安定性稼働時間
バイオマス発電低い(燃料の供給に依存)◎ 高い24時間連続稼働が可能
太陽光発電高い(日照量に依存)△ 低い(昼夜・天候で変動)日中のみ
風力発電高い(風速に依存)△ 低い(風況で変動)不規則

4.2 未利用資源や廃棄物の有効活用

バイオマス発電は、これまで価値がないとされたり、処理にコストがかかっていたりした未利用資源や廃棄物を、貴重なエネルギー資源として再利用できるという大きなメリットがあります。これにより、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に大きく貢献します。

具体的には、以下のようなものが燃料として活用されています。

  • 木質バイオマス:森林を健全に保つために伐採される間伐材や、製材工場で発生する樹皮やおがくずなど
  • 農業・食品由来バイオマス:稲わら、もみ殻、家畜の糞尿、食品工場の製造過程で出る残さ、家庭や店舗から出る食品廃棄物など
  • その他:下水処理場で発生する汚泥、建設現場から出る木材廃棄物など

これらの資源をエネルギーに変えることで、資源を無駄なく使い切る持続可能な社会の構築につながります。

4.3 地球温暖化対策への貢献

バイオマス発電は、地球温暖化の主な原因である温室効果ガスの排出削減に貢献します。その鍵となるのが「カーボンニュートラル」という考え方です。

バイオマスの燃料となる植物は、成長過程で光合成を行い、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して育ちます。このバイオマスを燃焼させて発電する際にCO2が排出されますが、これはもともと植物が吸収したCO2が大気中に戻るだけなので、実質的に大気中のCO2濃度を増加させないとみなされます。この性質をカーボンニュートラルと呼びます。経済産業省 資源エネルギー庁のウェブサイトでも、この仕組みが分かりやすく解説されています。化石燃料を燃やして新たなCO2を排出し続ける火力発電とは根本的に異なり、脱炭素社会の実現に向けた有効な手段の一つです。

4.4 地域経済の活性化と雇用創出

バイオマス発電は、地域内で資源と経済が循環する持続可能な社会の構築に貢献する点も大きなメリットです。発電所の燃料となる木材や農業廃棄物は、その多くが地域内で調達されます。

これにより、以下のような経済効果が期待できます。

  • 林業・農業の活性化:これまで利用価値が低かった間伐材やもみ殻などに価格がつくことで、林業や農業従事者の新たな収入源となります。
  • 新たな雇用の創出:燃料となるバイオマス資源の収集、運搬、加工、管理や、発電所の運転・保守など、一連の事業プロセスにおいて地域に新たな雇用が生まれます。
  • 地域内での資金循環:エネルギー生産のために海外から化石燃料を購入する資金が、地域内の資源購入費として還流し、地域経済を潤します。

このように、バイオマス発電はエネルギーの地産地消を促進し、地域に根差した産業を育て、地方創生にも繋がる可能性を秘めています。

4.5 廃棄物処理問題の解決

現代社会が抱える深刻な問題の一つに、増え続ける廃棄物の処理があります。バイオマス発電は、この問題に対する有効な解決策を提供します。

特に、食品廃棄物、家畜排泄物、下水汚泥などは、放置すれば悪臭や環境汚染の原因となり、その処理には多大なコストとエネルギーが必要です。バイオマス発電は、これらの廃棄物を燃料として利用することで、廃棄物の減量化と、焼却や埋め立てにかかる処理コストの削減を同時に実現します。

例えば、家畜の糞尿や生ごみを利用するメタン発酵(バイオガス発電)では、発電と同時に悪臭を抑制し、衛生的な処理が可能になります。さらに、発酵後の残さは良質な肥料として農地に還元することもでき、まさに一石二鳥、三鳥のメリットを生み出す技術として注目されています。

知っておくべきバイオマス発電のデメリットと課題

バイオマス発電は、カーボンニュートラルや資源循環の観点から多くのメリットを持つ一方で、導入・運用を進める上で無視できないデメリットや課題も存在します。メリットだけでなく、これらの側面を正しく理解することが、持続可能なエネルギーシステムを構築する上で不可欠です。

5.1 燃料の収集・運搬・管理にコストがかかる

バイオマス発電の最も大きな課題の一つが、燃料に関するコストです。化石燃料とは異なり、バイオマス資源は広範囲に薄く分散して存在しています。そのため、燃料の収集・運搬・管理に多大なコストが発生する点が、経済的な負担となる場合があります。

例えば、林地に放置されている間伐材や、各農家から排出される家畜排泄物などを一か所の発電所に集めるには、多くのトラックによる輸送が必要です。これには燃料費や人件費がかさみます。また、食品廃棄物や下水汚泥のように水分を多く含む燃料は、燃焼や発酵の前に乾燥などの前処理が必要となり、これが管理コストを押し上げる要因となります。

これらのコストは最終的に発電コストに反映されるため、他の再生可能エネルギーや既存の火力発電などとの価格競争において不利になる可能性があります。

5.2 資源の安定確保が難しい場合がある

バイオマス発電は、燃料となる資源がなければ稼働できません。しかし、燃料資源の安定的かつ継続的な確保が難しいという課題も抱えています。バイオマス資源の多くは、天候や季節、地域の産業活動に大きく依存するためです。

  • 林業の動向:間伐材や林地残材は、国内林業の活動量に左右されます。林業が停滞すれば、燃料の供給も不安定になります。
  • 農業の収穫期:稲わらやもみ殻といった農業残渣は、収穫期に集中して発生するため、年間を通じた安定供給には貯蔵設備が必要となります。
  • 輸入への依存:大規模なバイオマス発電所では、燃料の安定確保のために海外から木質ペレットやPKS(パーム椰子殻)を輸入するケースが増えています。しかし、これは国際的な価格変動や為替リスク、地政学的な供給不安に晒されることになり、国内資源の有効活用という本来の目的から離れてしまうというジレンマも生じます。

こうした背景から、長期的に安定した事業計画を立てることが難しい側面があり、資源エネルギー庁も持続可能性の確保を重要な課題として挙げています。

5.3 小規模分散型になりやすく発電効率が課題

燃料の収集・運搬コストの問題から、バイオマス発電所は燃料が発生する地域の近くに建設される「小規模・分散型」になる傾向があります。これは地域活性化に繋がる一方、発電効率の面では課題となります。

一般的に、発電設備は規模が大きくなるほど効率が向上する「スケールメリット」が働きます。しかし、小規模なバイオマス発電所ではこのメリットを享受しにくく、大規模発電所に比べて発電効率が低い傾向にあるのです。

発電方式一般的な発電効率特徴
大規模バイオマス発電(直接燃焼)20~25%程度燃料の安定確保が課題となるが、比較的高効率。
小規模バイオマス発電(直接燃焼)15~20%程度地域資源を活用しやすいが、効率は低め。
バイオガス発電(メタン発酵)35~40%程度ガスエンジンなどを用いるため比較的高効率だが、原料が限定される。
(参考)最新のLNG火力発電60%以上コンバインドサイクル方式により非常に高い効率を実現。

このように、特に小規模な木質バイオマス発電では、投入したエネルギーのうち電力に変換されるのは2割程度にとどまります。この効率の低さを補うため、発電時に発生する熱を温水や暖房として利用する「熱電併給(コジェネレーション)」が重要となりますが、熱を供給する先が近隣にないと成立しないため、立地が限定されるという制約もあります。

日本国内におけるバイオマス発電の導入事例

日本全国では、地域の特性や資源を活かした多様なバイオマス発電所が稼働しています。ここでは、大規模なものから地域に根差した小規模なものまで、特徴的な3つの導入事例を具体的にご紹介します。それぞれの事例から、バイオマス発電が持つ可能性と現実的な運用形態を読み解いていきましょう。

6.1 大規模木質バイオマス発電所の事例

国内では、輸入木質ペレットやパーム椰子殻(PKS)などを主燃料とする大規模なバイオマス発電所の建設が進んでいます。これらの発電所は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)を活用し、電力の安定供給に大きく貢献しています。

その代表例が、宮城県石巻市にある「石巻雲雀野(ひばりの)バイオマス発電所」です。この発電所は、国内最大級の出力を誇り、日本の再生可能エネルギー導入目標の達成に向けた重要な役割を担っています。

項目内容
所在地宮城県石巻市
発電出力102,500kW
主な燃料木質ペレット、パーム椰子殻(PKS)
特徴国内最大級の発電規模を誇り、約23万世帯分の年間消費電力量に相当する電力を供給。燃料は主に海外から調達しており、安定的な発電を実現しています。
運転開始2023年

このような大規模発電所は、ベースロード電源の一翼を担うポテンシャルを持つ一方で、燃料の大部分を輸入に頼るため、燃料の持続可能性や国際的な価格変動が今後の課題として挙げられます。

6.2 食品廃棄物を活用したバイオガス発電の事例

次に、私たちの生活に身近な食品廃棄物をエネルギーに変えるバイオガス発電の事例です。北海道帯広市では、地域の食品工場から出る廃棄物や家畜の排泄物を活用した先進的な取り組みが行われています。

「とかち帯広ガス株式会社」は、これらの有機性廃棄物をメタン発酵させ、精製したバイオガスを「再生可能天然ガス」として都市ガス導管へ注入しています。これは、発電だけでなく、ガスそのものをエネルギーとして地域に供給する画期的なモデルです。

項目内容
所在地北海道帯広市
主な原料家畜排泄物、食品廃棄物(ポテトチップス規格外品、豆類の皮など)
生成物バイオガス(精製後、都市ガスとして供給)、消化液(液体肥料として農地へ還元)
特徴廃棄物をエネルギーに変え、さらに発酵後の消化液を肥料として農地に還元する「食品リサイクル・ループ」を地域内で構築。エネルギーの地産地消と循環型農業を両立させています。

この事例は、廃棄物処理問題の解決、再生可能エネルギーの創出、そして地域農業への貢献という複数のメリットを同時に実現しており、他の地域でも応用可能なモデルとして注目されています。詳細は資源エネルギー庁のウェブサイトでも紹介されています。

6.3 地域資源を循環させる小規模発電の事例

最後に、地域の林業と密接に連携し、エネルギーの地産地消と地域経済の活性化を実現している小規模発電の事例を見てみましょう。岡山県真庭市は、バイオマス産業を核としたまちづくり「真庭バイオマス産業杜市(さんぎょうとし)」を掲げ、その象徴的な施設が「真庭バイオマス発電所」です。

この発電所の最大の特徴は、燃料となる木質チップを100%市内の未利用間伐材や製材端材で賄っている点です。さらに、発電時に発生する熱を近隣の施設に供給する「熱電併給(コージェネレーション)」システムを導入し、エネルギーを無駄なく活用しています。

項目内容
所在地岡山県真庭市
発電出力10,000kW
主な燃料地域の未利用間伐材、製材端材、剪定枝など
特徴地域内で発生する木材資源のみを利用し、林業の振興と雇用の創出に貢献。発電と同時に熱供給も行い、エネルギー効率を最大化。まさに地域資源循環のモデルケースです。

真庭市の取り組みは、エネルギー問題だけでなく、林業の衰退や地域経済の停滞といった課題に対する有効な解決策を示しています。このような地域主導の小規模分散型発電は、持続可能な社会を構築する上で非常に重要な役割を果たします。

バイオマス発電の現状と2025年以降の将来性

バイオマス発電は、太陽光や風力と並ぶ重要な再生可能エネルギー源として、日本のエネルギー政策において大きな期待が寄せられています。脱炭素社会の実現に向け、その役割はますます重要性を増しており、2025年以降も技術革新とともにさらなる発展が見込まれています。ここでは、国の政策目標から最新技術の動向まで、バイオマス発電の現状と未来を詳しく解説します。

7.1 日本のエネルギー政策における目標

日本政府は、2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」において、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた野心的な目標を掲げています。この計画の中で、バイオマス発電は再生可能エネルギーの主力電源化に向けた重要なピースとして位置づけられています。

具体的には、2030年度の電源構成において、再生可能エネルギー全体の比率を36~38%に引き上げる目標が設定されており、そのうちバイオマス発電が約5%を担うとされています。これは、天候に左右されず安定的に発電できる「ベースロード電源」としての特性が評価されているためです。目標達成のため、政府は未利用材の活用促進や技術開発支援など、様々な施策を推進しています。

電源2019年度実績2030年度目標
再生可能エネルギー18%36~38%
(内訳)太陽光7%14~16%
(内訳)風力1%5%
(内訳)地熱0.3%1%
(内訳)水力8%11%
(内訳)バイオマス3%5%
原子力6%20~22%
火力(LNG, 石炭, 石油等)76%41%

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「2021年に見直された「エネルギー基本計画」」

7.2 FIT制度(固定価格買取制度)の動向

これまで日本のバイオマス発電の普及を力強く後押ししてきたのが、FIT制度(固定価格買取制度)です。この制度により、再生可能エネルギーで発電した電力を、国が定めた価格で一定期間、電力会社が買い取ることが保証され、多くの事業者がバイオマス発電に参入しました。

しかし、国民負担の抑制や再生可能エネルギーの自立化を促すため、政府はFIT制度からFIP(Feed-in Premium)制度への移行を進めています。FIP制度は、発電事業者が卸電力市場などで売電した際に、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする仕組みです。市場価格に連動するため、事業者はより効率的な発電所の運営や、電力需要が高い時間帯に発電するといった市場を意識した戦略が求められるようになります。この制度変更は、バイオマス発電事業の競争力を高め、より持続可能なエネルギー源へと成長させるための重要なステップと言えるでしょう。

7.3 マイニングマシンの発電に活用

近年、新たなバイオマス発電の活用法として注目されているのが、暗号資産(仮想通貨)のマイニングです。マイニングは膨大な計算処理を行うため、大量の電力を消費し、その環境負荷が世界的な課題となっています。

そこで、バイオマス発電による電力をマイニングに活用する取り組みが一部で始まっています。特に、家畜排泄物などを利用した小規模なバイオガス発電設備とマイニングマシンを組み合わせることで、これまで使い道のなかった未利用資源を収益化する新たなビジネスモデルが期待されています。発電した電力を売電するだけでなく、マイニングという付加価値の高い用途に直接利用することで、事業の採算性を向上させ、再生可能エネルギーの導入をさらに促進する可能性を秘めています。

7.4 次世代技術と今後の展望

バイオマス発電の未来は、現在開発が進められている次世代技術にかかっています。これらの技術が実用化されれば、バイオマスエネルギーの利用範囲は飛躍的に拡大し、日本のエネルギー自給率向上や脱炭素化に大きく貢献することが期待されます。

  • バイオジェット燃料・バイオディーゼル(BTL)
    木材や微細藻類などのバイオマスから、ジェット燃料やディーゼル燃料といった液体燃料を製造する技術です。航空業界や運輸業界の脱炭素化を実現する「切り札」として、国内外で実用化に向けた研究開発が加速しています。
  • バイオコークス
    木くずや食品廃棄物などを原料に、石炭コークスの代替となる固形燃料を製造する技術です。製鉄プロセスなどで使用される石炭コークスを代替することで、鉄鋼業界のCO2排出量削減に貢献します。
  • メタン合成(メタネーション)
    バイオガスから分離した二酸化炭素(CO2)と、再生可能エネルギー由来の水素(H2)を反応させ、都市ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成する技術です。既存のガスインフラを活用できるため、社会実装しやすいカーボンリサイクル技術として注目されています。
  • バイオマスとCCUSの組み合わせ
    バイオマス発電所で排出されるCO2を分離・回収し、貯留または有効利用する「BECCS(Bio-energy with Carbon Capture and Storage/Utilization)」と呼ばれる技術も期待されています。これは、大気中のCO2を減少させる「ネガティブエミッション」を実現する数少ない技術の一つです。

これらの革新的な技術開発が進むことで、バイオマスは単なる発電にとどまらず、多様なエネルギー需要に応えることができる持続可能な資源としての価値を一層高めていくでしょう。

まとめ

バイオマス発電は、木材や食品廃棄物などの生物資源を燃料とする再生可能エネルギーです。その最大の理由は、燃焼時に排出されるCO2が植物の成長過程で吸収したものであるため、実質的にCO2を増やさないカーボンニュートラルの仕組みにあります。天候に左右されず安定した電力供給が可能で、廃棄物の有効活用や地域経済の活性化にも繋がる一方、燃料の収集・管理コストが課題です。日本のエネルギー政策においても重要な位置づけであり、今後の技術開発が期待されています。また、コンテナ本体と内部機器の総重量は数十トンに及ぶため、設置場所の地盤がその荷重に耐えられるか、必要に応じて地盤改良工事が可能かも重要な検討ポイントです。

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ゼロフィールド